噛み締めれば
ほのかな甘みがやってくる

 あるいはアマゾンで収穫される、全長が3メートルにもなる世界最大の淡水魚、ピラルクーも美味しい。これはミラフローレス地区にある「AMAZ」というレストランで遭遇した。

 「身は世界一美味く、肝は宇宙一美味い」と、結局は釣ることが叶わなかった開高健が、ヤケ気味で叫んだ魚である。それがグリルにされていた。

巨大魚ピラルクーは、意外にも上品で美味である。

 脇には、バナナを炒めてファローファ(キャッサバの粉)をまぶしたものと、黄色い唐辛子のアヒ・チャラピートとココを混ぜたソースである。

 恐らくこいつは体長30センチくらいの、小ピラルクーだろう。小さいとはゆえ、「どうだい人間、俺を食べるか」と聞いてくる迫力があって、さあどこから箸を(この場合フォークだが)つけるかなと、考えさせられる。

 腹身の脂ののっていそうなところをむしってやった。その身は柔らかい。

 はらりとほぐれて舌の上に乗る。身は海の白身魚のそれではなく、にじますや鮎に似た拙い繊維質である。

 そして噛み締めれば、ほのかな甘みがやってくる。やはり塩水という海水に揉まれた魚と違い、身は川魚のそれである。あの巨大魚の肉が、意外にもしなやかで甘みを秘めているところに、開高健は撃たれたのだろうか。

 そんな想像をしながらさらに噛み締めていくと、奥底からそっとエグミが現れ、「舐めちゃいけませんぜ、旦那」と言いながら、胃袋に落ちていくのだった。

 果物類も見つけたらぜひ。甘酸っぱく、収斂性を感じるカムカム、マンゴーとココナッツの香りが共存するオレンジのニカンボ、パッションフルーツの仲間のトゥンボ、ほの甘いきゅうりという感じのpepino。香り高く、甘すっぱいルクマ、タマリロ、チェリモヤ、ワナワナ、カカオ、モカンボ、柿を長細くしたような形の黄色い果物で淡い酸味を持つcocona。中でも生カカオは、日本ではお目にかかれない。かすかに甘くチョコレートの香りが漂う、気品ある果物である。

オレンジココナッツ。茶色のものより甘みが濃い。

 その他5000種類はあると言われるジャガイモ(生で食べられ甘い品種も!)や各種トウモロコシ、唐辛子など、食いしん坊なら何日もいたくなるだろう。

マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。

Column

マッキー牧元の「いい旅には必ずうまいものあり」

立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く「タベアルキスト」のマッキー牧元さんが、旅の中で出会った美味をご紹介。ガイドブックには載っていない口コミ情報が満載です。

2017.03.02(木)
文・撮影=マッキー牧元