世界中からラベルのデザインを募る カナダのクリエイティブなブリュワリー

ビールで世界中のクリエイターを応援！

2社で大型の社屋をシェアしているのも、小さなクラフトブリュワリーならではの工夫だ。ビールだけでなく、アートや音楽の発信基地ともなっている。

 トロントの南西にあるハミルトンの街に、ユニークなビール醸造所がある。2013年夏に創業した「コレクティブ・アーツ・ブリューイング」では、3カ月毎にラベルのデザインを公募して変えているのだ。

 そこには、才能あるアーティストたちを支援したいという創業者たち、マッド・ジョンストンさんとボブ・ラッセルさんの想いがあった。「創造性は創造性を生み、その創造性が美味しいビールを生む」という信念だ。

入り口には「コレクティブ・アーツ・ブリューイング」のバーがあって、造りたてのビールを飲むことができる。

 2016年夏までに、40カ国の71人ものミュージシャン、写真家、映像作家などの手による約400種のデザインラベルを使ったビールを世に送り出してきた。毎回、2000点あまりの応募から50点を選ぶという。ラベルデザインを採用すると、それらをデザインしたクリエイターたちに200カナダドルの報酬を支払い、作品のプロモーションを応援していく。

ブリューパブの奥には、過去にデザインされたラベルがズラリと展示されている。これらのラベルを、専用アプリを使ってスマートフォンで撮影すると、その場で作者たちの音楽や映像、写真を楽しむことができる。

 まずは、各ラベルデザインにつき、2万本のビールがカナダ、アメリカに流通する。そのラベルには特殊な印刷がなされていて、専用アプリを使ってスマートフォンで撮影すると、各アーティストの作品にリンクされる仕組みになっている。美味しいビールを飲みながら、音楽や写真、映像を楽しむことができるのだ。

 公式ホームページには、採用されたクリエイターたちのラベルデザインと彼らのホームページなどへのリンクがアーカイブとして残される。また、情報発信だけでなく、ミュージシャンとコラボしたビールと音楽のイベントなど、様々なイベントを催して創造性を発信し続けているのだ。

 もちろん、ラベルだけでなく、ビールにもこだわりがある。敏腕醸造家のライアン・モローさんのオリジナルレシピで、季節限定の6種類を含め、14種類のビールを造っていて、エクストラ・ペール・エール、ブラックIPA、サワー・パンプキン・シーズンなど、バラエティ豊かだ。

こちらでは「ニッケル・ブルック」のビールが醸造されている。

 2014年にオープンした醸造所は、同じくオンタリオ州にあるクラフトブリュワリー「ニッケル・ブルック」との共同経営。「アーツ＆サイエンス・ブリューイング・カンパニー」を設立し、マイクロブリュワリーの短所を補い、効率のいいビール醸造を目指したのだ。それぞれのブランドはそのままに、大型の醸造所やギャラリーを共有したり、醸造所内での音楽イベントを共催したりしている。

「コレクティブ・アーツ・ブリューイング」の生産ラインには、カラフルなデザインのプリントを施された缶が流れてくる。

「コレクティブ・アーツ・ブリューイング」の缶ビール。アーティストたちの作品がプリントされている。

 「ニッケル・ブルック」は、「ベター・ビタース(よりよい苦みを)」を信条に、ジョン・ロマノさんとピーター・ロマノさんの兄弟が1992年に立ち上げた、家族経営のビール醸造所。トロントのクラフトブリュワリーの草分けのひとつで、受賞歴もある数々のビールを世に送り出している。

「ニッケル・ブルック」の瓶ビール。ラベルは色味を抑えたクラシック感のあるデザインだ。

「ニッケル・ブルック」の共同創業者、ジョン・ロマノさん。

 「コレクティブ・アーツ・ブリューイング」のラベルデザインは、日本からでもホームページを通して応募できるので、世界に発信したい作品がある人は応募してみてはいかが？ この記事がきっかけで、日本人のデザインが採用されたらうれしい！

最後はもちろんテイスティング！(笑) 「ニッケル・ブルック・ブリューイング」の2本(左の缶2本)と「コレクティブ・アーツ・ブリューイング」の2本(右の瓶2本)。さらに「コレクティブ・アーツ・ブリューイング」のパンチのある黒ビールを。

2016.11.28(月)
文・撮影＝たかせ藍沙