神戸市産の小麦を使っているパン屋がある――そんな噂を耳にして見つけ出したのが、西区にある「兵庫楽農生活センター」の、「パン屋 小麦生活」です。
6月初旬、田んぼや野菜畑が続く農村風景の中で、小さな小麦畑がキラキラと黄金色に輝いていました。
「ユメカオリ、ユキチカラなど、数種類の品種を、点在する畑、合わせて9反で栽培しています」と、加古隆一さん。
加古さんは、1977年、神出町生まれで、実家は兼業農家。サラリーマンとして8年働いた後、「ものづくりに携わりたい」と、製パン学校に通い始めます。学校に通いながら兵庫楽農生活センターの「パン屋 小麦生活」でパン作りを始め、前後して小麦の栽培を開始。
「年をとったら、小麦も作ってパンを作りたい」と加古さんが夢を話したら、すぐに始めるよう、パン作りの師匠にアドバイスされたのだそう。
「最初は、稲刈りを終えた田んぼに、2時間以上かかって手で種をまいて……。このあたりでは、麦を栽培していないから、教えてくれる人がいない。自家栽培の小麦を使ったパン作りの先駆者もいない。製粉も自分でやらなくてはなりません。ひたすら試行錯誤を繰り返してきました」
小麦を栽培するだけでなく、加古さんは、パン屋のオープンから数年かかって、パン作りに使う小麦を国産小麦粉100%に変えました。そして、さらに、数種類のパンに、自ら収穫して脱穀、製粉した全粒粉を加えるようになったのです。
「パンの甘みがグンと強くなる」と加古さんはにっこり。イベントでは、そんな「全粒粉麦粉」を販売することもあると言います。
右:同センター内の農産物直売所「きらめき神出」に並ぶパン色々。
加古さんが栽培する神戸市西区産の小麦を使ったパンをご紹介しましょう。
「バゲット」には、北海道産の小麦に、自家栽培した小麦を製粉した全粒粉を20%配合。低温長時間発酵させています。弾けるような軽やかな歯触りで、噛むと粉の甘さがしっかり。そのままでも食べられる、飽きのこないおいしさです。
丸い「ブール」は、クラスト(外皮)が柔らかく、中もふんわりめ。スライスして、シンプルなサンドイッチにしてもよさそう。
大きな「メロンパン」は、栽培した小麦を自家製粉した全粒粉100%のクッキー生地を、国産小麦粉100%の生地の上にのせて焼き上げています。カリッ、フワッの食感が楽しい。ほんのりした甘みで、おやつにぴったりです。
クリームチーズとレーズンをたっぷり使ったパンなど、様々なバリエーションのパンも登場します。
2016.07.24(日)
文=そおだよおこ
撮影=上田浩江