日本初公開作品がずらり。見どころを紹介
本展は1950年代から1980年代までの主に4つの年代に活躍した15人の女性写真家の作品が、作家ごとに展示されている。出展作品のほとんどが日本初公開だ。
三本松さんに、見どころの作品をいくつか紹介してもらった。
「ジビレ・ベルゲマンの代表作でもある『記念碑』は、共産主義を提唱したカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの銅像を、構想段階から設置まで約10年にわたり追ったドキュメンタリーのシリーズです。もともとベルゲマンは自身の純粋な興味として彫刻家のスタジオを訪ね、記録撮影をかさねていたのですが、途中から党の知るところになり、正式なコミッションワークとして撮るように。エンゲルス像が中吊りにされた一点だけですとまるでドイツ再統一後に社会主義の彫像が撤去される様子に見えますが、じつは完成品をベルリン中心部の広場に設置している最中の写真。彫刻と写真、それぞれの特性を窺うことができるシリーズです」
差し止め、プロパガンダも……徐々に変化
「クリスティアーネ・アイスラーは、東ベルリンとドレスデンを中心に、1980年代のパンクシーンを撮影しました。本来パンクは勤労を旨とする社会主義国家である東ドイツには存在できないカウンターカルチャーですが、アイスラーは国内のムーブメントを撮影し、大学のギャラリースペースなどで発表しました。こうした写真は当局から展示の取り止めが命じられることもあり、大学の学長が擁護してくれて展示が実現できたこともあったそうです。自由を追求する市民の声も高まり、少しずつ社会の体制が変わってきた時期のものです。
ヘルガ・パリスによる、女性労働者の作品も興味深いものです。いわゆる公的な報道写真には、笑顔の工場労働者らを写したもの――いわばより良き社会を体現し、労働を称賛するプロパガンダとして撮影されたものもありますが、パリスがベルリンの縫製工場で撮影した女性労働者たちの写真には、仏頂面ともいえる、素の率直な態度が表れている。我々が社会主義国家からイメージするような、“プロパガンダ的な写真表現しか許されない”という制作環境ではなかったようです」
ドイツの東西再統一後の、数少ない一枚
「こちらは、ベルゲマンが戦後の集合住宅の室内を撮った連作。戦後に建てられたプレハブ集合住宅の多くは、経済性を優先して天井が低く、日本における公団住宅のように画一的な配置や内装で供給されました。ベルゲマンはそうしたベルリン市内の建物のうち、「P2」タイプと呼ばれた、キッチンとリビングルームが一体化した部屋を同じアングルからファインダーに収めています」
「ベルゲマンが集合住宅の均質性を無人の空間として撮影したのに対し、マーギット・エムリッヒは、そうした住まいに暮らす人々の日常を、群像のポートレートとしてとらえました。《リビングルーム》というシリーズ名のもとに多様な世帯を取材し、個々の作品には、タイトルとして、一家全員の名前と年齢・職業が列記されています。現代の日本人が見ると十分立派ではないかと思う住まいですが、よく見ると、戦前の重厚な家具と、戦後の安価な家具が見て取れたり、ペットが一緒に写っている。物資不足の環境下であったという東ドイツで、調度品に個性を覗かせながら、日々を共に生きる人々を垣間見ることができる、とても面白いシリーズになっています」
「こちらは本展では数少ない、東西ドイツ統一後に撮られた作品の一つです。マウアーパーク(壁公園)という、かつてベルリンの壁が建っていた場所に作られた公園での一枚。壁が撤去された空間に設置されたブランコを漕ぎ、高く舞い上がる女性の姿は、ファッション誌のためのカットと思われますが、開放感にみちた映画のようなワンシーンとなっています。
東ドイツの写真は長らく見過ごされてきましたが、近年再評価が著しい。社会主義リアリズムを指針とした東ドイツにおいて、絵画や彫刻ほどには表現の制約を被らなかった写真というメディアだからこそ残しえた、本当のリアルな社会の姿。女性写真家たちが自らを通して世界に向けた視点、そして確かな技術に裏打ちされた個性ある表現を感じ取ってください」
企画展:もはやない国のかつてない光 東ドイツの女性写真家たち
開催場所:神奈川県立近代美術館 葉山
会期:2026年6月13日(土)~8月30日(日)
休館日:月曜日(7月20日を除く)
開催時間:午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
