グルテンフリーやスムージー……。手軽に健康でキレイになりたいという人々の願いを受け、次々に登場する新しい欧米式の健康法。しかし内科医の奥田昌子さんは「健康法にも人種差がある」と指摘し、欧米人とは異なる遺伝子・異なる環境要因を持つ日本人にとって、欧米人に有効な健康法は役立つどころか有害な場合すらあると警鐘を鳴らす。
奥田さんの最新刊『最新 欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」 科学が示す、人種と病気の新常識』より一部を抜粋してご紹介。
» 【後篇を読む】「ヨーグルトで体調が悪くなる?」「断食の効果は…」日本人の腸内環境は欧米人と何が違う?《腸内細菌にも人種差が》
グルテンフリーで日本人は糖尿病になる恐れあり
グルテンフリーは小麦やライ麦、大麦を原材料とするパンや麺、お菓子などを避ける健康法です。原因不明の体調不良に苦しんでいたプロテニス選手が、グルテンフリーで復活した話をきっかけに、日本でも広く知られるようになりました。
小麦粉に水を加えて練ると、蛋白質が結びつき、粘り気のあるグルテンができます。グルテンの語源は「べたべたくっつくもの」を意味するラテン語で、その名のとおり、弾力性と粘着性があります。パンが膨らんだ状態を保てるのも、うどんや中華麺、パスタなどの麺にコシが生まれるのもグルテンのおかげです。麩のおもな成分なので日本人も伝統的に食べてきました。
機械で製造した麺より手打ちのほうがコシが強いのは、グルテンがからみ合い、しっかりした網目状の組織ができるから。逆に、天ぷらの衣を合わせるときに、混ぜすぎるとグルテンができて衣がぼってり重くなってしまいます。
食卓を豊かなものにしてきたグルテンですが、摂取をひかえたことでプロテニス選手が元気になったのは奇跡でもなんでもありません。この選手はグルテンアレルギーだったからです。小麦製品を中心に、グルテンのもとになる蛋白質を含む食品を遠ざけたことで、アレルギー症状が起きなくなったということです。
このようにグルテンフリーは、本来、グルテンの摂取で腸に障害が起きるセリアック病や、小麦ないしグルテンにアレルギーがある人のための治療法でした。セリアック病は腹痛や下痢が起きる自己免疫疾患で、日本の発症率は欧米の20分の1程度です。その理由は、セリアック病の発症とかかわる遺伝子を持つ人が欧米には25~30%いるところ、日本には約0・3%しかいないからです。
小麦アレルギーも同様で、日本の発症率は米国の約6分の1。なんと言っても小麦の消費量自体が違います。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、2021年の国民1人あたりの年間小麦消費量は英国が124キロ、米国は117キロあるのに対し、日本は42キロしか食べていません。パン食が定着した現代でも、欧米のざっと3分の1です。
セリアック病と、小麦/グルテンアレルギーが珍しくない欧米では、グルテンフリー食品が以前から普及していました。そこにプロテニス選手の復活劇が華々しく報じられたことで、問題なく小麦を摂取できる人たちのあいだでもグルテンフリーが流行し始めました。これが日本にも伝わって、グルテンフリー健康法として話題になったのはご存じのとおりです。
