隣人が放った“不可解な言葉”
「あれ……隣の声ってこんなに響くんだ。引っ越してきた時は全然――」
ドンッ!!
壁を殴りつけるような鈍い音。
居心地の悪い静寂の中でその声は聞こえてきました。
「だから、隣に人なんか引っ越してきてないって言ってるでしょ」
隣人Hさんの住む部屋は3階の角部屋。隣という言葉が指すのはFさんの住むこの部屋だけです。
お隣から響く不可解な言葉の意味に戸惑っていると、今度は何か重いものが崩れるように落ちるドドドドッ!! っという大きな音が響いたのです。
何かトラブルでも起きたのかと心配になったFさんは、思わず外に飛び出してHさんの部屋のドアを叩きました。
「あ、あの! 大きな音が聞こえたんですけど大丈夫!?」
しかし、Hさんからの返事は全くなく。不気味な静寂だけが辺りを包んでいました。
最悪の事態が頭をよぎったFさんは、ためらいつつもドアノブに手をかけました。
鍵のかかっていなかったドアは音もなく開き、リビングに続く廊下が見えました。
「え?」
次に目に飛び込んできたのは、リビングと廊下を隔てるすりガラスドアの向こうに見えた、複数の人影でした。
まるで、あの日と同じように飲み会を楽しんでいるように手を動かしていましたが、物音はしていません。
あの空間にさっきまで叫んでいたHさんがいる想像がつかない。そう思った時、Fさんの背筋に鳥肌が立ち、なぜか足元を見てしまったのです。
「えっ、うわ……」
玄関に靴がひとつもありませんでした。
