昨年末のM-1グランプリで注目を集めたドンデコルテ。ボケ役の渡辺銀次と、ツッコミ役の小橋共作によるコンビである。渋いスーツ姿で舞台を堂々と歩き回り、理屈っぽく語る渡辺。その理屈に気圧されながらも的確にツッコむ小橋。2人のネタは会場をおおいに沸かせ、決勝初進出ながら準優勝に輝いた。
そんなドンデコルテの渡辺が、いま一部で注目を集めている。品がある。知性的。高貴。Xで名前を検索すると、そんな言葉が並ぶ。渡辺がチャーハンを作るYouTube動画は、執筆時点で再生数160万回を超えた。帰宅後に上着をハンガーにかけ、ネクタイを箱に収め、シャツにアイロンを当てる。画面に映る一挙手一投足に、「生活が丁寧」といったコメントが寄せられる。
渡辺銀次、40歳独身。政府統計上の若者には含まれず、中年層に属する。そんな渡辺は、なぜこれほど人を惹きつけるのか。私たちは彼のどこに「品」を感じているのか。鍵になるのは、「冷笑の罠」の回避だと思う。
チャーハンを作りに熱中した“闇の時代”
渡辺は多趣味だ。チャーハン作り、けん玉、靴の手入れ、読書。ただし、注目すべきは数の多さではない。一つひとつへの凝り方である。
なかでも際立つのが、チャーハンだ。YouTubeの動画で紹介された調理工程によれば、卵・砂糖・マヨネーズを混ぜたご飯とは別に溶き卵を用意し、自家製のネギ油まで仕込む。中華鍋は空焼きと油ならしを重ね、しっかりと使い込まれている。お玉も高熱で炙り、防錆コーティングを取る工程を済ませたものだ。
チャーハンに本格的に取り組みはじめたきっかけは、YouTubeで調理動画だったという。時期はドンデコルテの結成前。本人の言葉を借りれば「闇の時代」である。前のコンビを解散し、ピン芸人として活動していた時にあたる。当時は芸人として宙ぶらりんの状態で、時間だけがあった。そんな時期に、約3カ月間、ほぼ毎日のようにチャーハンを作り続けたのだという。
火加減を覚え、油の量で失敗し、中華鍋を振る手つきが少しずつ変わる。世間からは何の反応もないが、鍋だけは正直だった。積み重ねた時間が、そのまま味になる。芸人仲間は「これよりおいしいチャーハンを食べたことがない」と絶賛する。
渡辺は、当時をこう振り返る。
「チャーハンに集中しておけば、お笑いの情報は入ってこないですから。チャーハンがうまくなればなるほど、病んでいるのかもしれないですね」(YouTube・それいけ益々荘「ドンデコルテ渡辺銀次にドン底時代に磨いた絶品チャーハンを作ってもらい食べる」)
