なぜ「非効率」を描くドラマがヒットするのか?

 これらの物語に共通しているのは、都会の片隅で、他愛のない会話や丁寧に作られた食卓を通して、「非効率」の中にある人生の喜びを静かに見つめる作品であること。

 ドラマチックでもない、考察もない。ただの、ゆっくりとした日常。私たちがこうした作品に強く惹かれてしまう理由は、「急げ、稼げ、成果を出せ」という現代社会の呪いが、もはや私たちの精神的な限界点に達しているからです。

 実際、日本の政治の場では、「私自身もワークライフバランスという言葉を捨てます。働いて働いて働いて働いて働いてまいります」といった、公然と休息を軽視し、過度な労働を是とするようなメッセージが発せられることさえあります。これは自己犠牲の上に成り立つ「効率至上主義」が、いかに私たちの生活の隅々にまで浸透しているかを物語っているといっていい。

 だからこそ、心の休息を許されない人々にとって、「非効率」を描くドラマこそが唯一残された、社会からの「逃避先」となってしまっているのです。

 ヒロトは現代社会の「落ちこぼれ」なのか?

 ここで、私たちは立ち止まって問いかけるべきです。「効率」や「経済力」で測るならば、そう分類されてしまうかもしれません。しかし、彼は誰からも羨まれる、「精神的な富」の最大の勝者ではないでしょうか。

 彼は、お金や地位と引き換えに、現代人が失った「機嫌よくいる自由」、「焦らない権利」、そして「誰かと心を通わせる時間」という、真の贅沢を享受しています。

 真に困難な状況にあるのは、時代に合わせることと引き換えに休みを持つ権利を失い、精神的に疲弊している多くの人々のほうかもしれません。

 『ひらやすみ』を観終わった後、私たちはみんな、一緒になって縁側に座り、人生の「一呼吸」を置きたいと願うはず。本作は、現代に生きる私たちが、無意識のうちに求めている「人生の休息(ひらやすみ)」であると同時に、真の幸福の価値観を根本から揺さぶる、自由へのパスポートなのです。

夜ドラ『ひらやすみ』(NHK総合)

最終回 12/4(木) 夜10:45~11:00 ※NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信中