赤くて甘いビールに目から鱗が落ちた!

左:ディルク・リンデマンスさん(左)と、ギールト・リンデマンスさん。従兄弟同士で6代目を継いでいるというのも、ファミリー・ブリュワーズならでは。
右:銅製の仕込み釜の前で、酵母を活性化する温度など、ビールを造るための工程を説明していただいた。

 最初のビール取材は、リンデマンス醸造所。1822年創業の家族経営の醸造所だ。今回取材したのは、すべてベルギー・ファミリー・ブリュワーズ(家族経営醸造所)と呼ばれる醸造所。ベルギー国内に22軒あり、50年以上、同じ場所、同じオリジナルレシピ、家族経営でビールを造っているという条件を満たした醸造所だ。

 リンデマンス醸造所は、ランビックビールを造っている醸造所としてはベルギーで2番目に大きく、社長以下31人という家族経営ながらも、45カ国に輸出している。6代目当主は、ディルク・リンデマンスさんとギールト・リンデマンスさん。従兄弟同士だ。

通常の数倍の時間と手間をかけた麦汁を、この平たい容器に入れて、一晩、窓を開けたまま空気を通して空気中にある天然の酵母を取り込む。

 「ランビックビール」は、ブリュッセル南西のこの土地でだけ造ることができる自然発酵ビールのこと。培養した酵母ではなく、空気中の酵母に触れさせることによって乳酸菌が生成され、酸味が加わった独特の味となる。

 自然発酵中のビールを取材することはできなかったけれど、空気に触れやすいような平たい容器、空気が通り抜けるように造られた大きな窓など、興味深い設備を見学させていただいた。ここに一晩置くことにより、空気中の酵母を取り込むという。

冷やされた麦汁は古いオーク樽の中で発酵し、2~3年かけて熟成する。
フランボワーズなどと混ぜるビールはステンレスタンクで。オーク樽よりも香りが豊かでまろやかになるという。

 創業から約200年、伝統的手法に新しいテクノロジーを取り入れ、原料の生のチェリーをチェリージュースに代え、醸造行程で使う銅のディスクをフィルターに代え、最上級の「キュベ」と呼ばれるビール以外は、オーク樽をステンレスのタンクに代えた。ステンレスのほうが豊かでまろやかな香りが出ることも新たな発見だったとか。

リンデマンスのビールは、フレーバーの素材の色に合わせたカラフルなラベルがかわいい。

 設備の進化とともに、常に新しいレシピの研究にも余念がない。2015年5月にバジル風味のビールを発売、11月にはビンテージ違いのランビックビールをブレンドした新製品を発売した。ランビックビールは瓶内で再発酵が進むため、同じ銘柄のビンテージ違いのビールがあり、それらをブレンドするという手法もあるのだ。

社内に、おしゃれなカフェといった趣の部屋が。ガイド付きの見学ツアーに参加すれば、ここでできたてのビールを楽しむことができる。

 ランチを兼ねて、ビールの試飲と、ビールに合わせたお料理の試食となった。リンデマンス醸造所では、シンプルなビールのほかに、カシス、フランボワーズ、クリーク(サワーチェリー)、アップルなどの風味が香しいビールがある。

左:華やかな赤とチェリーの甘さが女性に人気というクリーク。左は通常の甘いチェリーの「リンデマンス・クリーク」。右は特別限定品の、キュベにサワーチェリーを加えた「オード・クリーク・キュベ・ルネ」。
右:ビールに合わせた料理のうちのひとつ。白身魚に、こくのあるランビックビールを使ったバターソースがよく合う。

 まずは、新製品で、食前にお勧めという「スポンタン・バジル」。ほのかなバジルの香りとランビックビールの酸味が食欲をそそる。続いて、2010年のスペシャルブレンド、1年物のオーク樽とステンレスタンクの飲み比べ、そして最後に、「クリーク(サワーチェリー)」と、世界のベスト5ビールにも選ばれたことがあるというスイートチェリーの「リンデマンス・クリーク」と、特別限定品の「オード・クリーク・キュベ・ルネ」。

 「えっ? おいしい!」。実は私、甘いビールは苦手と思い込んでいて、フルーツが入ったビールは飲んだことがなかったのだ。

 ビンテージがあって、樽の違いがあって……、もう、ワインのよう。「ビールがこんなに奥が深かったとは!」と、しょっぱなで目から鱗が落ちたのだった。

Lindemans(リンデマンス醸造所)
所在地 Lenniksebaan 1479, 1602 Vlezenbeek, Belgium
電話番号 02-569-0390
URL http://lindemans.be/

2016.02.23(火)
文・撮影=たかせ藍沙