女性ならではのメッセージをアートに昇華

 80年代後半から90年代にかけてアメリカの音楽シーンでは歌詞の意味が重大化していきました。ヒップホップなんてまさにそう。かつて黒人が奴隷だったことを黒人自身がきっちり歌えるようになった――つまりあれは心の雄叫びだったんです。

 マドンナは女性ならではのメッセージを外見もひっくるめてアートに昇華していたと思います。彼女は『ウルトラ・マドンナ~グレイテスト・ヒッツ』という80年代を総括したベスト盤も出しているので、1枚聴くならこちらもおすすめです。

 さて、この連載も最終回。気がつけば2010年代も半ばを過ぎました。時代が巡ったおかげで80年代はもちろん、90年代以降のことも懐かしさを超えたフラットな視点で見られる時期が来たような気がします。

 80年代の洋楽は、まず中心にマイケル、プリンスがいて、次の世代のジャネットたちの登場による勢力交代もあって、いろいろな要素を吸収しながら、90年代の日本の音楽にも実はすごく影響を与えているということです。“80年代の音楽なんて私には関係ないわ”と思っている人も、好きだった音楽の中に気づかないうちにそうしたエッセンスが入っているわけです。その構図がわかれば、きっと“なるほど!”と思うんじゃないでしょうか。

 2015年11月にはジャネット・ジャクソンが14年ぶりに来日公演を敢行。最高のパフォーマンスでした。そしてマドンナも来たる2016年2月、10年ぶりに来日します。個人的にも、ジャネットがもたらした影響力については改めて考えてみたい気分です。

 80年代の洋楽に興味を持たれた方は、例えば、僕の『プリンス論』あたりを読みながら音楽を聴いていくと、いろんな発見があっておもしろいんじゃないかなと思います。今回紹介した人たちはiTunes StoreやApple Musicなどで検索してもらえればサクッと聴けますから。そういう意味では本当にいい時代になりましたね。

2016.01.06(水)
文=秦野邦彦
撮影=榎本麻美