マイケル・ジャクソン、ワム!をはじめとして、ポップミュージックの素晴らしさを布教する伝道師としても活躍するミュージシャンの西寺郷太さんが、新刊『プリンス論』を上梓しました。これを機に、80年代のシーンを席巻し、その後の音楽界に大きな影響を与えた5人のアーティストの魅力と功績を、プリンスとの関係性を軸に語ってもらいました。
vol.3 ジャネット・ジャクソン (1966~)
兄のライバル、プリンスの後輩と手を組んだ!
ジャネット・ジャクソンが1986年に発表した『コントロール』というアルバムの話をしましょう。
前回お話しした通り、彼女は10人兄弟の末っ子。物心ついたころから“ジャクソン5の妹”としてお城みたいな豪邸に暮らし、パパラッチやファンに囲まれ、会う人もスターばかり。テレビもレコード・デビューも気づけばお膳立てされていました。
だからこそ彼女は苦しかったんじゃないかと。兄や家族の七光り。それらは自分に対する正しい評価ではない。“だったら、本当の私ってなんなの?”と。
そこに気がついて、ジャクソン・ファミリーから独り立ちして“自分の人生は自分でコントロールしますよ”という意思表示をしようと思ったわけです。
このアルバムが革新的だったのは、まずジミー・ジャムとテリー・ルイスという2人組のプロデューサーチームが参加したことが挙げられます。彼らはもともとザ・タイムというグループのメンバーで、80年代前半はプリンスのライブの前座を務める後輩ポジションだったんですが、才能がありすぎて権力争いの果てにミネアポリスを追い出されてしまいます。つまり、兄マイケルのいわば敵だったプリンスの後輩と結託して作ったのが『コントロール』なんです。
『コントロール』および次のアルバム『リズム・ネイション 1814』(1989年)と、“5年先が聴ける”と謳った『バッド』(1987年)との音の違いは明らかで、ジャネットの方が圧倒的に新しく、お兄ちゃんであるマイケルの音楽を軽く更新していました。
2015.12.23(水)
文=秦野邦彦
撮影=榎本麻美