猫を一匹かかえて越してきた女(ひと)

常緑樹とのコントラストが美しい高台弁天堂あたり。女人舞楽 原笙会の舞人が佇む。

 JR東海のCMが放映された2011年の秋、私は友人に誘われ受付でご朱印書きのお手伝いをしていました。観光客がどっと押し寄せ、問い合わせの電話は鳴りっぱなし、受付はてんやわんや、駅からの細い道は大渋滞! CMの影響力にびっくりしました。

 その友人というのが毘沙門堂の受付担当の浮羽ひろみさんです。ご朱印も書かれるし、お守りの企画など八面六臂のご活躍ですが、ただの受付嬢ではありません!!

 なんといっても京都奈良の行事に精通しておられ、私なんぞは足元にも及ばぬお寺の知識、そして法要、神事、民俗芸能などの行事への愛と情熱には舌を巻くばかりです。

 その経験を生かし、2万人を超えるメンバーがいるmixi の人気コミュ二ティ『京都日和・時々奈良』管理人もしておられます。ガイドブックより新鮮でコアな情報が得られることがよくあります。

 そんな浮羽さんですが、京都の人ではありません。かなりの頻度で横浜から京都に通うスーパー京都通でした。

 出会った頃、彼女に聞いてみたことがあります。

「そないに京都に通うのやったら、もう京都に住んでしもたら?」

「私はね、住む京都より、通う京都が好きなの」

 作詞家でもある浮羽さんは、時折とても素敵なフレーズを発します。

 京都通の人というのは案外在京の人ではありません。交通費や宿泊費もかかりますし、時間も限られています。遠距離恋愛のように、滞在期間にかける気合いと情熱が全く違うような気がします。

 ついに数年前、浮羽さんは一大決心して仕事をたたみ、愛猫である「ふわたま」を一匹かかえて京都に引っ越してきました。尊敬する師僧を慕い、得度も視野に入れて毘沙門堂にやってきたのです。しかし、ほどなくして師僧は病で他界されてしまいました。毘沙門堂の美しい四季を背景に、悲しみを乗り越えがんばっている浮羽さんを私は応援しています。

2015.10.31(土)
文・撮影=中田文花