旅館道 その3
「伝統工芸を担う若い匠たちとの縁を知る」

島根県の伝統工芸が客室のキーホルダーに。

 「界 出雲」で渡されるルームキーは、とても凝っていて、美しい木目のケヤキの丸い木枠に、吹きガラスや和紙、組子細工がはめ込まれている。

 これらは、実は島根県の伝統工芸を次世代へ繋げるべく活動する若手工芸職人グループ「シマネRプロダクト」の作品だ。メンバーの中から、出雲鍛造の小藤宗相さんと吹きガラスの布野康さんに、その活動と「界 出雲」との縁について聞いた。

島根の伝統工芸を次代に繋げたいと語る、吹きガラスの布野康さん(左)と出雲鍛造の小藤宗相さん(右)。
「シマネRプロダクト」による伝統工芸に彩られたご当地部屋。天井を飾るのは華やかな組子細工の照明。

 まず小藤さんは「シマネRプロダクト」について「2012年に、出雲鍛造、吹きガラス、組子細工、木工芸、白磁器、石州和紙の6人の職人で活動を始めました。Rは、ものづくりを一新して(Renewal)、生まれ変わらせ(Reborn)、次世代へ引き継ぐ(Relay)というような意味合いを込めて付けた名前です」とその由来を語る。

 また、布野さん曰く「『星野リゾート 界』の若手スタッフが、その土地の民藝やものづくりにスポットを当てた部屋を作ろうという趣旨の企画を立ち上げた時、賛同して一緒にやろうということになりました。界の中でもご当地部屋が出来たのは出雲が最初。地方で活動をしていくにも、なかなか機会が多いわけではなかったので、出雲大社の縁結びの神様のお陰のようにも思います」。出雲の地とのご縁を感じたのだという。

出雲鍛造は、江戸末期から続く鍛冶。小藤宗相さんは、その伝統を生かした作品を生み出し続ける。

 小藤さんは「砂鉄と炭が採れた出雲は、江戸末期からたたらというふいごを使っての製鉄がさかんで、私の家も曾祖父の代から日本刀などを造っていました。その鍛冶の技術を今日に生かした作品を造ってもなかなか発表の機会がないもの。この界との出会いがなければ今はなかったと思います」という。

布野康さんは、「島根はガラスの材料にも恵まれていて、ガラスづくりの工房が出来たのが大きかった」と語る。

 大学からガラス造りを始めたという布野さんは「島根にはケイ砂というガラスの材料の産地もあり、原材料に恵まれていることや、前の奥出雲町長がものづくりの町にしようと1998年に町営ガラス工房を立ち上げたこともあり、出身地の出雲に戻って来ました。こうした界での発表の機会を経て、今ではメンバー全員でパリにものづくりの最高峰が集まる“メゾン・エ・オブジェ”にも2年連続で出品しています」と言い、この「界」との縁から、次へのリレー(Relay)を目指して積極的に活動をしている。

 出雲と言えば、出雲大社の祭神であるオオクニヌシノミコトによる因幡の白兎や国譲りなど多くの神話にまつわるところ。次回は、そんな「界 出雲」を囲む神話の世界や、古くからの優雅な舞楽を楽しむ時間をご紹介する。

星野リゾート 界 出雲
所在地 島根県松江市玉湯町玉造1237
電話番号 050-3786-0099(界予約センター)
URL http://kai-izumo.jp/

小野アムスデン道子 (おの アムスデン みちこ)
ロンリープラネット日本語版の立ち上げより編集に携わったことから、ローカルグルメや非日常の体験などこだわりのある旅の楽しみ方を発信するトラベル・ ジャーナリストへ。エアライン機内誌、新聞、ウェブサイトなどへの寄稿や旅番組のコメンテーター、講演などを通して、次なる旅先の提案をしている。
Twitter https://twitter.com/ono_travel

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2015.10.17(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=山元茂樹