旅館道 その2
「山陰の海の幸を味わい、出雲のお茶のお手前を楽しむ」

左:それぞれ山の幸、海の幸を生かした見た目も楽しい八寸。
右:お刺身は納豆醤油や酒を煮詰めて醤油の代わりに用いる煎り酒などで素材がより引き立つよう造られている。

 その土地でとれた新鮮な食材を生かした料理は、温泉と並んで「旅館道」の楽しみの一つ。

ポルトガル由来の珍しい鍋は、二枚貝の形で蓋を閉めて蒸し煮にすることができる。

 「界 出雲」の季節の会席では、メインの台の物が島根牛の「牛の三味焼き」か、海の幸を二枚貝のような形のポルトガルの銅製鍋を使って蒸す「しじみのカタプラーナ」から選べる。後者は、しじみの出汁に生姜やニンニクが効いて、深い味わいだ。

大きな蟹が一杯まるごと。甲羅にはお酒で煮切ったミソたっぷり。

 また特別会席は、山陰の海の幸の代表格とも言える蟹料理を味わえる。秋には紅ずわいを蒸して、冬にはずわい蟹を蒸し蟹や焼き蟹としても調理。新鮮な蟹の証であるタグ付き蟹も贅沢に味わえる。

武家のお茶と言われる三斎流について教えてくださった影山勉先生。

 「旅館道」の食の楽しみとして、その土地の歴史が作り上げてきたものを味わうのも一興。松江は茶の湯や和菓子の歴史を持つ土地柄。「界 出雲」では、今は出雲に家元がある三斎流のお茶を庭園の茶室で楽しむことができる。お茶を点ててくださった三斎流の影山勉先生に、その流儀と歴史を聞いた。

お茶室で立てていただく一服のお茶。ゆったりと流れる時間が落ち着く。

「三斎流は、利休の高弟であった豊前小倉藩主・細川忠興(夫人は細川ガラシャ)が興した茶の流派ですが、松江城の鬼門にあたる普門院の住職がこれを引き継ぎ、今に至っています。お湯と水を入れた時のお茶碗の回し方が陰陽道によるものだったり、親指を握りこんでのお手前などがあったりと、他の流派と異なり、武家のお茶とも言われています。表千家や裏千家では、茶碗を触っても大丈夫なように指を常にきれいにするという前提があります。それに対し、武士が戦場でお茶を立てる時には、汚れた親指が触れないようにするというわけです」

茶室で薄茶と季節の和菓子が振る舞われる。

 また茶の席で濃茶を回し飲みするというのは、武士の仲間の結束を固めるという意味合いだったことなど、当時の武家の茶の湯についてのいろいろな話を聞きながら、和菓子と一緒にゆっくりお茶を嗜むのは、忙しい日常を忘れるようなひと時だ。春と秋には、風流な野点も催すという。

天気がよければ竹庭で、スタッフによる野点の席も。

2015.10.17(土)
文=小野アムスデン道子
撮影=山元茂樹