チャイコフスキーはすべてを音楽に捧げた作曲家

「プレトニョフさんからは、絵画や詩からも多くを学ぶようアドバイスを受けました」

「プレトニョフさんからはたくさんのことを学んでいます。最初に『チャイコフスキーの交響曲を弾いてみなさい。弾けるだろう?』と言われ、すぐに弾くことができなかったんです。チャイコフスキーの協奏曲には交響曲の要素がすべて入っているから、ピアニストはすべての交響曲をピアノで弾けなければいけないのですね。そこから、たくさん勉強をしました。チャイコフスキーのオペラやバレエも見ましたし、それがコンチェルトにも通じていることを発見しました。オペラは面白いですね。『エフゲニー・オネーギン』を観たのですが、もっと色々観たくなった。プレトニョフさんには、技術的なこともたくさん教わっています。ホールの一番遠くまで届くピアニッシモの弾き方も、彼から習いました」

 モスクワで勉強を続ける牛田にとって、ここ数年はロシア音楽に触れる機会が多くなった。ロシア・ピアニズムを継承する教授たちからレッスンを受けることで、チャイコフスキーの本質が深く理解できるようになったという。

「チャイコフスキーは、すべてを音楽に捧げた作曲家だと思います。ショパンには遊びの要素があるけど、チャイコフスキーは、音楽にしか人生の救いがなかったような真剣さを感じます。そして、感情的な起伏が激しいのも特徴ですね。バレエ音楽でもそうですが、展開がめまぐるしくてついていくのが大変なことがあります。『ピアノ協奏曲第1番』は僕が13歳で初めて弾いた曲で、技術的にも、音楽的な流れの面でも大変な曲。ショー的な要素もあって緊張するけど、本場のロシアのオーケストラとの初共演がこの曲で、本当によかったと思っています。いい演奏をして、曲のエネルギーをお客さんと分かち合いたいですね」

 2016年2月にはソロ・リサイタルも行う。自分の選んだ道だから、黙々と進む。15歳のピアニストの生き方は、実に男らしく勇敢なのだった。

ミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団演奏会
会場 東京・文京シビックホール
日時 2015年7月7日(火)19:00~
URL http://www.japanarts.co.jp/concert/concert_detail.php?id=296&lang=1

会場 長野・上田市交流文化芸術センター(サントミューゼ)
日時 2015年7月8日(水)19:00~

会場 名古屋・愛知県芸術劇場コンサートホール
日時 2015年7月11日(土)17:00~

牛田智大 ピアノ・リサイタル
会場 東京オペラシティ コンサートホール
日時 2016年2月13日(土)13:30~
URL http://www.japanarts.co.jp/concert/concert_detail.php?id=332&lang=1

小田島久恵(おだしま ひさえ)
音楽ライター。クラシックを中心にオペラ、演劇、ダンス、映画に関する評論を執筆。歌手、ピアニスト、指揮者、オペラ演出家へのインタビュー多数。オペラの中のアンチ・フェミニズムを読み解いた著作『オペラティック! 女子的オペラ鑑賞のススメ』(フィルムアート社)を2012年に発表。趣味はピアノ演奏とパワーストーン蒐集。

Column

小田島久恵のときめきクラシック道場

女性の美と知性を磨く秘儀のようなたしなみ……それはクラシック鑑賞! 音楽ライターの小田島久恵さんが、独自のミーハーな視点からクラシックの魅力を解説します。話題沸騰の公演、気になる旬の演奏家、そしてあの名曲の楽しみ方……。もう、ときめきが止まらない!

2015.07.04(土)
文=小田島久恵
撮影=山本茂樹