小林一茶や遠藤周作など、日本文化への深い愛情

「歌手を映し出す鏡でいたいので、いつもベージュか黒の服を着ているのです。この薄紫の上着は照明のロベルトがくれたんですよ。いつも同じ色の服を着ているから!」

――150以上のオペラ作品を演出し、2000人以上のソリストを舞台に上げてこられたデフロさんにとって、忘れられない歌手はいますか?

「たくさんいますよ。ジョゼ・ヴァン・ダムは素晴らしい歌手でしたし、テレサ・ストラータスとやったブリュッセルでの『ペレアスとメリザンド』も忘れがたい。レオ・ヌッチの『リゴレット』もそうですね。フレデリカ・フォン・シュターデとやったマスネのオペラ……(懐かしそうな目で)小さな町の小さな劇場で、ほとんど無名の歌手たちとやった仕事も覚えています」

――オペラの神様のような……。

「そんな立派なものではないですけどね(笑)。私自身も疑問を抱きながら作っていますし、天才ではない。作曲家は天才であるべきだと思っていますが。でも、ちょっとの才能は必要かな(笑)。あとは、いっぱいいっぱい研究すること。楽譜と向き合うこと。稽古を大切にすること。『プッチーニはこういうことが言いたかった』というのは、稽古場で分かることなんですね。それが劇場の真実なんです。劇場は私にとっての道具で、水泳選手にとってのプールのような場所だと思っています」

豪華なゲスト歌手を脇で支える日本人歌手たちと、新国立合唱団の活躍も聴きどころのひとつ。 撮影:三枝近志/提供:新国立劇場

――『マノン・レスコー』の稽古場にも真実がありました。

「胎内にいる子供がもうすぐ生まれそうだったのに、産めなかった……というのが4年前に起こったことでしたから、再演が決まったときは本当に嬉しかった! これまで世界中の150近くの劇場で仕事をしてきましたが、テクニカル・スタッフの連携が最も素晴らしいのは新国立劇場です。オーガニゼーションというのはオペラにとって大切なことなんですよ。再び新国の若々しい合唱団と仕事を出来るのも幸福です。私は日本文化を愛していて、小林一茶の俳句や遠藤周作の小説のファンなのです。今回も京都に滞在して、壬生寺(みぶでら)狂言をすべて観る予定です。仏教の教えについての書物も読みますし、その意味ではオペラだけに興味がある演出家ではないと思っています」

新国立劇場オペラ『マノン・レスコー』
会場 新国立劇場 オペラパレス
日時 2015年3月12日(木) 19:00~
   2015年3月15日(日) 14:00~
   2015年3月18日(水) 14:00~
   2015年3月21日(土・祝) 14:00~
URL http://www.nntt.jac.go.jp/opera/performance/150309_003712.html

小田島久恵(おだしま ひさえ)
音楽ライター。クラシックを中心にオペラ、演劇、ダンス、映画に関する評論を執筆。歌手、ピアニスト、指揮者、オペラ演出家へのインタビュー多数。オペラの中のアンチ・フェミニズムを読み解いた著作『オペラティック! 女子的オペラ鑑賞のススメ』(フィルムアート社)を2012年に発表。趣味はピアノ演奏とパワーストーン蒐集。

Column

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2015.03.11(水)
文=小田島久恵
撮影=白澤 正