歌手たちを愛することが大切です
――『マノン・レスコー』のお稽古を見て、デフロさんが指揮者のように全身を使って音楽を表し、歌手たちの身体に触れながら演出をされているのに驚きました。こういう演出の方法を見るのは初めてだったので。
「ハハハ! 私の声はよくないですが、すべて一緒に歌ってるんですよ。歌手を大切に大切に思っています。まずは演出家が彼らにエネルギーを与えることが大事。身体が純粋であれば、エネルギーを返してくれます。演出家と歌手も愛のように会話することが重要なんです。歌い手を愛する……限りなく愛する。彼らを嫌いになることはありません。今回の『マノン・レスコー』は4年前に既に稽古をつけたものですが、全員が『今回はもっとよくなってるね』という意見をもっているんです。すばらしいプロフェッショナルです」
――演出をするときに特に何を参考にされるのですか?
「『マノン・レスコー』はアベ・プレヴォーの原作を何度も何度も読み返しました。18世紀が舞台の作品なら、その時代の差別についての歴史の本も読みます。色々な本を読みますし、プッチーニの楽譜も数え切れないほど研究しました。楽譜に始まって、最終的な到達地点というのは観客なのです。ああしろとかこうしろとか、演出家は教育的な役割を担っているわけではありません。どう感じるのか。解釈は観客に委ねられるべきなのです」
――『マノン・レスコー』はプッチーニの初期の名作ですが、同じ題材の『マノン』(マスネ作曲)もデフロさんは演出されていますね。大きな違いは何でしょう?
「ふたつのオペラは同じ小説をもとにしていますが、プッチーニはより主人公の愛の関係を強調しています。マスネのほうが原作に忠実と言えますが、プッチーニは騎士デ・グリューと父親との関係や修道院でのエピソードを省略し、そのかわりに最後、マノンとデ・グリューだけの荒野のシーンを書きました。デュエットだけで終わるオペラって、世界のどこにあったでしょうか……この二重唱は非常にドラマティックです。プッチーニが二人の情熱というものにいかに重きを置いていたかがわかるでしょう」
2015.03.11(水)
文=小田島久恵
撮影=白澤 正