旧正月だけのスペシャルメニューで縁起かつぎ

 グルメ天国の香港では、お正月の料理も豪華絢爛だ。日本と同様、香港にも、お正月は特別なご馳走を食べる習慣がある。

 その代表格が、「盆菜(プンチョイ)」。たくさんの食材をひとつの大きなお皿や鍋に入れて、みんなでワイワイと一緒になって食べる料理だ。中身は、アワビにナマコ、シイタケ、花膠(魚の浮き袋)、牡蠣、鶏肉、車えび、豚ロースト、鴨のローストなどなど。

レストランでは、昔ながらの盆菜を現代風にアレンジしたものが食べられる。

 ユニークなのは、それら食材ひとつひとつが、縁起がいい言葉に発音が似ているということ。髪菜(藻の一種)は「發財(ファッチョイ)」=お金が儲かる、蠔豉(乾燥させた牡蠣)は「好市(ホウシー)」=好景気……と、どれも縁起かつぎのオンパレード。さすがは、ビジネスの街だけある。

「恭喜發財!」。新年の挨拶を交わしながら賑やかに食べたい香港版おせち。

 盆菜はもともと、香港の郊外、新界に暮らしていた客家族の料理で、その由来には諸説ある。有名な話が、「中国南宋の幼い皇帝が元軍に追われ新界まで逃げてきた際、突然訪れた皇帝をもてなすため、村人たちがあらゆる高級食材を盛り合わせて差し出したのが始まり」というもの。ほかに、「宴会時の余った食材を使った、使用人のまかない料理がルーツ」という説も。

 かつては香港の一部の地域だけで食べられていた盆菜は、その手軽さと豪華な見た目が受けて、市内のレストランにも登場するように。小さめの盆菜から予約を受け付けているレストランもあるので、旧正月に香港を訪れたのなら、お祝いに食べてみるのも、旅の思い出になりそう。

左:この時期、レストランのエントランスに必ずといっていいほど飾られているのが、幸運を招くといわれる橙のお正月飾り。
右:旧正月に飛び交うのは、利是(お年玉)。親が子どもにあげるだけではなく、上司が部下に、既婚者が未婚者に配るものだが、常連客がレストランのスタッフに配ることも。いろいろなデザインの利是袋があって、この時期だけの香港土産にもぴったり。

【取材協力】
香港政府観光局
URL http://www.DiscoverHongKong.com/

キャセイパシフィック航空
URL http://www.cathaypacific.com/

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn/

2015.03.15(日)
文・撮影=芹澤和美