日本中を旅する「悼む人」を高良健吾が熱演

高良健吾演じる坂築静人は、ある日、親友の命日を忘れてしまったことにショックを受け、仕事も恋人も家族も捨てて「悼む」旅に出る。

 映画の主人公・静人(高良健吾)は、あることをきっかけに不慮の死をとげた人々を悼むため、日本中を旅するようになった。山形の事故現場で静人に出会ったゴシップ記者の“エグノ”こと蒔野(椎名桔平)は興味をひかれ、独自に取材をはじめる。

 一方、静人の実家では、母・巡子(大竹しのぶ)が末期癌と闘う中、妹・美汐(貫地谷しほり)が妊娠中でありながら婚約者と破談になってしまう。破談の理由には、静人への偏見もあった。何も知らずに旅を続ける静人だったが、同じ頃、夫(井浦新)を殺した過去を持つ倖世(石田ゆり子)と出会う。夫の亡霊に悩まされる彼女は、静人と共に悼む旅をするようになる。それぞれが静人の悼みの行為の意味を探りながら、生や死について悩む中、蒔野の身にある事件が降り掛かる。

撮影に入る前から入念の準備を重ねた高良は、最大14キロにもおよぶリュックを背負って黙々と旅を続ける静人と次第にシンクロしていったという。

 本心をほとんど語らない静人に対し、辛い過去や現実に苦しみ、心情を吐き出す蒔野や倖世。また、死者の愛にまつわる記憶を心に刻もうとするあまり、自分の愛を封印しようとする静人に対し、死の床にある母・巡子は「誰かを愛してほしい」とだけ願い続ける。

 さまざまな思いが交錯する中で、どんな辛い死を遂げた者にも等しく生があったこと、生きる者には未来があるという普遍の事実を、映画は押し付けがましくなく描いていく。東北を中心とした冷たい空気の中にも生気を感じさせる風景に加え、蒔野の職場として週刊文春編集部が出てくるなど、人が生きる営みを実感させる背景にも注目したい。

『悼む人』
堤幸彦監督は、2012年に上演された「悼む人」舞台版の演出も手がけている。その完成度の高さに感銘を受けた原作者の天童氏が堤監督による映画化を快諾し、本作の製作がスタートすることになった。シンガーソングライター、熊谷育美による主題歌「旅路」も印象的。
(C)2015「悼む人」製作委員会/天童荒太
URL http://www.itamu.jp/
2015年2月14日(土)ロードショー

悼む人 上

著・天童荒太
本体590円+税 文春文庫

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悼む人 下

著・天童荒太
本体570円+税 文春文庫

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静人日記 悼む人II

著・天童荒太
本体680円+税 文春文庫

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石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。ときおり作家の長嶋有氏と共にトークイベント『映画ホニャララ はみだし有とアヤ』を開催している。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。俳号は栗人。「もっと笑いを!」がモットー。

2015.02.11(水)
文=石津文子