マヤ族の誇りを、鮮やかな民族衣装に託して

 「携帯電話は便利でいいわね。でも、洋服は着る機会がないわ。私にはこの衣装があるから、ほかの服を着る必要がないもの」と話すイレーネさんが着ているのは、ウイピル(貫頭衣)と、コルテ(巻きスカート)。

 ウイピルは村によって刺繍だったりビーズが施されていたりと、それぞれに特徴がある。それはかなりはっきりとしていて、衣服を見れば、一目でどこの村から来たマヤ族なのか分かるのだという。

イレーネさんは一日の多くを、布を織って過ごす。このとき着ていたウイピルは4カ月かけて織ったもの。

 マヤの女性はみな、イレーネさんのように、一着の民族衣装を何カ月もかけて織り、何年間も着る。衣装を新調するのは年に1回ぐらい。ほんの数着を着まわせるのは、彼らが暮らす高原地帯は湿度が低いため、同じ服を清潔なまま、数日は着ることができるから。汚れたら、川や村の共同洗濯場で洗濯する。

スーテと呼ばれる風呂敷のような布には100通りの使い方がある。市場で買ったものを入れるほか、スカーフとして、教会にいくときのかぶりものとして、肌寒い日のショールとして、大活躍。

 そんな彼らが大切に着ている鮮やかな衣装も、元をたどればとてもシンプルなものだったという。16世紀初頭にグアテマラを征服したスペイン人が、先住民であるマヤの人たちに過酷な労働を強いた際、逃亡者を見つけやすくするために定めたのが、村ごとの衣装だ。いわば、民族衣装は異国の支配者から強いられたもの。だが、マヤの人たちは、そこに独自の世界観をしっかりと取り込み、みごとに自分たちの文化へと変化させた。

市場に行くと、村ごとに異なるさまざまなマヤの衣装が見られる。衣装だけでなく、グアテマラは言葉も豊富。公用語のスペイン語のほかに、なんと22種類のマヤ言語があるのだそう。

 帰り際、イレーネさんは「サヨナラ」と日本語で挨拶をして、姿が見えなくなるまでずっと手を振ってくれていた。マヤの人は、自分からは積極的に話しかけないけれど、優しくて、他人を思いやる人がとても多いと思う。日本からは遠く、なかなか簡単に旅できる国ではないけれど、またいつか、あの凜とした、誇り高きマヤの人々に会いに行きたいと思っている。

【取材協力】
グアテマラ政府観光局
白石光代

芹澤和美 (せりざわ かずみ)
アジアやオセアニア、中米を中心に、ネイティブの暮らしやカルチャー、ホテルなどを取材。ここ数年は、マカオからのレポートをラジオやテレビなどで発信中。漫画家の花津ハナヨ氏によるトラベルコミック『噂のマカオで女磨き!』(文藝春秋)では、花津氏とマカオを歩き、女性視点のマカオをコーディネイト。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
オフィシャルサイト http://www.serizawa.cn

 

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文・撮影=芹澤和美