アイドルというカテゴリーはカオスに突入した
山口 2010年代は、アイドルという言葉の指し示す範囲が、むちゃくちゃ広がった時代ですよね。以前は、アイドルっていうのは、テレビで見る容姿端麗な芸能人の花形であり、女優などへの登竜門という存在でした。いつの間にか、テレビに出ない(出られない)で、ライブハウスや路上でパフォーマンスをする人たちが、当初「地下アイドル」と言われていたのが、「地下」が取れて、普通に「アイドル」と呼ばれるようになった。MCとかで、「私、もう2年アイドルやってるんですけど」みたいな発言があって驚いた記憶があります。アイドルって存在ではなくて、「やる」ものになったんだと。
伊藤 アイドルが存在ではなく一つのジャンルになったんですよね。
山口 そのシーンからPerfumeがスターダムにのしあがり、アーティストと呼ばれる存在になり、大手芸能事務所に所属している女の子達が、秋葉原のAKB48劇場で「会いに行けるアイドル」になって、カテゴリーがぐちゃぐちゃに溶けてしまいましたね。
伊藤 男性アイドル担当だったので、あまり明るくないですけど、女性アイドルシーンが大きな変革期に来ていたのは確かですね。地上波では観ることのできないカオスが起こっていたことは何となく感じていました。
山口 僕は、違和感を感じたりしつつも、基本的には良いことだと思っているんですよ。日本の強みは雑食性だと思うからです。
伊藤 雑食性、分かる感じがします。
山口 日本は宗教的な禁忌もほとんどないし、外来の文化を受け入れて消化するのが、遣隋使の昔から得意だったと言われていますね。例えば、食文化にしても、東京ほどワールドワイドなバラエティに富んだ食事が選べる国はないと言いますね。音楽も似たところがあって、いろんな海外の要素を取り込みながら、独自の発展も遂げています。
伊藤 ですよね。東京の食文化は良い意味で混沌としていて、世界でも類を見ない。もともと日本になかったラーメンもカレーもいつの間にか日本のものになっているし。インド人が日本のレトルトカレーが大好きとか言ってる姿をみると、外来文化を受け入れて独自に発展させる日本人の力には感心します。
今の10代のリスナーはジャンルの壁を気にしない
山口 そうですね。最近の10代ユーザーの音楽に対する頓着のなさに、それと共通する部分を感じるんですよ。以前なら、例えばビジュアル系のファンは女性アイドルには興味がなかった気がします。今は、ジャンルの壁とか気にしない。アニソンもロックバンドも同じレイヤーで楽しむ感じです。
面白いのは、この若い層の屈託のなさは、海外のJファンの感覚と共通しているということです。海外から見ると、ビジュアル系もアイドルもコスプレもアニソンも全部「日本っぽい」ってくくられる。日本人の僕から見たら、全然違うと思うアーティストを同じように愛好している。
伊藤 10年くらい前までは、日本人はジャンル分けが好きだなぁ~って印象があったんですけどね。細分化しすぎて、しまいにはうっすら一つになってしまったんでしょうかね。
山口 細分化されたジャンル分けはありつつ、つまみ食いをするのが普通ってことですかね? 今日は和食で明日はイタリアン、デザートはかき氷とワッフルと、みたいな感じでしょうか。僕自身は、ピストルバルブという10人組のガールズホーンバンドを米国ツアーと、フランス、ドイツ、イギリスのヨーロッパツアーに連れて行ったのですが、この時のファンの反応を見て、海外のJファンと日本の10代の嗜好の共通性に気づきました。
伊藤 そういえば、テゴマスを連れてスウェーデンに行った時も、ライブにきたファンたちはビジュアル系もアイドルもコスプレもごっちゃまぜでしたね。当時はそれに驚かされましたけど、今は日本も同じ感じですね。
2014.09.14(日)
文=山口哲一、伊藤涼