玉石混淆のバルサミコの世界。まずは正統の一品をゲット

バルサミコを造るブドウは、ランブルスコやトレッピアーノ種が中心。甘い品種のブドウが使われる。使用品種も規定で決められていて、もちろん生産過程もすべてモデナかレッジョ・エミリア域内。

 1970年代まで、一部の人にしか知られていなかったこのバルサミコが、フランスのヌーヴェル・キュイジーヌや、イタリアのクチーナ・クレアティーヴォ(創作料理)の流行で、広く、世界中に知られるようになる。いまや各地でバルサミコが造られ、日本のスーパーでも手に入るものになった。フランス産のバルサミコや日本産のバルサミコもあるのだ。

樽には四角い穴があいている。ここからモスト(絞ったブドウジュース)が蒸発していき、年々容量が減り、とろみが増していく。写真:岡田幸司(PIATTI)
モデナの3ツ星リストランテ、オステリア・フランチェスカーナでお土産にくれるバルサミコ。これはモデナで造られたものだが、DOP認定ではない。シェフの親戚が造っているものだ。

 本来、モデナとレッジョ・エミリアで造られたものだけがバルサミコを名乗れるのだが、この辺り、曖昧なものが多い。ただ、品質もピンからキリまで。DOP認定でなくともおいしいものも多いし、熟成されていないブドウ酢に手をくわえて似せただけのものもあるのが実情だ。

 意外と知られていないことだが、バルサミコはブドウから造られる。でも、ワインヴィネガーとは違う。ざっくり言うと、バルサミコはブドウ果汁を煮詰め、木の樽で自然発酵させたもの。そのため、伝統的なバルサミコは最低でも12年の熟成期間が必要となる。ワインヴィネガーはブドウ果汁に酵母をくわえてアルコール発酵させ、さらに酢酸菌を添加して発酵させたお酢だ。

オステリア・フランチェスカーナの人気料理“マブナム”。アイスクリームに見立てた料理は、フォアグラにナッツをまぶしたもの。フォアグラの中から、バルサミコがとろっと出現する。
マントヴァ郊外にある3ツ星レストラン、ダル・ペスカトーレ・サンティーニでもバルサミコを造っている。でも、モデナやレッジョ・エミリア産ではないから、DOP認定のバルサミコとはいえない。お酢の具合をチェックしているのは、ソムリエのアルベルト・サンティーニ氏。

 ところが、10年以上熟成させたワインヴィネガーに規定の手順で手をくわえれば、バルサミコと名乗ることができる。実にややこしい世界なのだ。

 とはいえ、伝統的な製法で造られたバルサミコの魅力に変わりはない。歳月とともに甘味ととろみを増すバルサミコ。手間ひまかけた贅沢なお酢は、チーズやアイスクリーム、フルーツなどに数滴垂らし、味わうのがおすすめ。もちろん、バルサミコだけをそのまま味わうのもアリ。1000年の歴史を凝縮させた、極めつきのバルサミコをぜひ手に入れたい。

大沢さつき(おおさわ さつき)
大好きなホテル:LAPA PALACE@リスボン
大好きなレストラン:TORRE DEL SARACINO@ソレント
感動した旅:フィリピンのパラワン島ボートダイビング、ボツワナのサファリクルーズ、ムーティ指揮カラヤン没後10周年追悼ヴェルディ「レクイエム」@ウィーン楽友協会
今行きたい場所:マチュピチュ

Column

トラベルライターの旅のデジカメ虫干しノート

大都会から秘境まで、世界中を旅してきた女性トラベルライターたちが、デジカメのメモリーの奥に眠らせたまま未公開だった小ネタをお蔵出し。地球は驚きと笑いに満ちている!

2014.09.16(火)
文・撮影=大沢さつき