もはや「トランプの後継者」とは名乗れない
――大統領選を考えたとき、共和党内の候補者争いも動きがありそうです。トランプ政権にこれだけノーを突きつけられると、"トランプの後継者"というわけにはいかない感じがします。
もはや「トランプの後継者」とは名乗れないでしょう。一番計算が狂ったのは、副大統領のJ・D・バンス氏。彼はこれまでの政治家人生、トランプ大統領に引き上げてもらってここまでやってきました。過去のトランプ批判のツイートを全消しして、上院議員に、そして副大統領へ……と、まさにシンデレラストーリーでした。
しかし、今になって負けたトランプ大統領を見捨てるのもどうかと思われますし、かといってトランプ路線を継承しても戦えません。また、彼は労働者を中心とする「MAGA層」と、自身が人脈を築いた「テック業界」の両方から支持を得ようとしてきましたが、AI問題などで両者の利害は対立し始めています。「あなたは本当にMAGAの代表なのか、テック業界の傀儡ではないか」という批判も出ており、次の選挙に向けてどちらに立つのか明らかにしなければなりません。
――最後に、この中間選挙の結果が日本を含む世界にどういう影響を与えるか教えてください。
多くの人々が、投票権がなくても強い関心をもってこの中間選挙を見守っていたと思います。トランプ政権の関税やイラン戦争は、世界に回復不可能なほどの打撃を与えました。ホルムズ海峡はかつてのように自由に通航できない状況が続くかもしれません。多くの人が、民主党が良いというよりは、対抗勢力の台頭による歯止めを望んでいたはずです。
関税政策が不人気だからといって、トランプ大統領が自ら「ディールをやり直そうか」と言ってくることはありませんが、日本側から「もっとアメリカにとっても良いディールをやりませんか」と組み替えを提案することはできるはず。今、日本は外交的に厳しい状況にあります。日中関係は冷え込み、ロシアとの関係も緊張している。そうなると「アメリカにだけは捨てられてはいけない」という行動を取りがちです。
しかし、例えばトランプ政権のICC(国際刑事裁判所)への制裁も、支持しているのは岩盤支持層の3割だけで、多くの国民は反対しています。ICCについてきちんと知識があれば、その加盟に賛成する人も5割超にのぼるという調査もあります。日本としては厳しい環境の中でトランプ政権との関係を考えてしまうかもしれませんが、2年後の変化を見据え、アメリカ社会に根強く存在する国際秩序や同盟、法の支配を大事にしようという世論を見た外交をしないといけません。
共和党議員もこのままトランプ大統領に従っていては自分の選挙が危ういので、行動が穏やかになるかもしれない。共和党内にも超党派で動く様子も出てくるでしょう。日本としても、今見えているトランプ大統領の単独行動主義だけに目を向けるのではなく、安易な譲歩は避け、重大案件はできるだけ先延ばしにするなど、賢明な外交が求められます。
・このインタビューは文藝春秋PLUSにて公開された動画(11月5日公開)をWEB記事用に抜粋・再構成したものです。
・動画では対談の様子をすべてご覧いただけます。
https://youtu.be/OBFAR59gbWs
三牧聖子(みまき・せいこ)
同志社大学大学院 教授。専門はアメリカ政治・外交、国際関係論。東京大学教養学部卒業、同大学院で博士号を取得(学術)。早稲田大学助手、米国ハーバード大学やジョンズ・ホプキンズ大学研究員などを経て、2025年より現職。著書に『戦争違法化運動の時代』、『Z世代のアメリカ』、共著に『アメリカの未解決問題』、『自壊する欧米』、編著に『「アメリカの戦争」と世界危機』など
