批判されていたオバマが応援に駆けつけた
少し前のアメリカではこうした訴えは急進的に聞こえたかもしれませんが、イスラエルへの批判は9月の国連総会でも各国で共有される認識になっていた。こうした左派的な主張は、民主党の支持者の中では主流になりつつあります。国民皆保険支持も、イスラエルへの軍事支援停止も、今や過半数を占めています。
そして重要なのは、10月末にバラク・オバマ元大統領がミシガン州に入り、エルサイード氏を応援したこと。エルサイード氏は、「なぜ国民皆保険まで実現せずオバマケアで止まったのか」とオバマを批判してきた候補でもあった。オバマ氏はそれを承知の上で応援に駆けつけたのです。オバマ氏も元々は国民皆保険を目指して政界入りしましたが、様々な壁に阻まれ、妥協の産物としてオバマケアが生まれました。そのオバマ氏が、40代のエルサイード氏に対して語りかけたことは、非常に意味があります。主流派と左派が批判し合う構図が民主党を長らく悩ませてきましたが、オバマ氏が「人々に支持される左派政策のもとに、一致していこう」と党の主流派に呼びかけたといえます。
さらにエルサイード氏は国民皆保険を実現するために、保険業界はもちろん、大企業やロビー団体から基本的に献金を受けず、小口献金とボランティアで戦ってきました。そうした人物が、金に物を言わせる対立候補に勝つことになれば、それはミシガン州一州の勝利にとどまりません。市民が本当に求める改革を説得力をもって打ち出せば、富豪の巨額支出に対抗できるのだという、金権政治への打撃になります。また、9.11以降、激しいバッシングにさらされてきたイスラム教徒の政治家が、それを跳ね除けてムスリム初の上院議員になることは、差別や偏見を乗り越えていくアメリカの力強さを示すことにもなります。
――激戦7州ではありませんが、ルビオ国務長官の地元フロリダ州は僅差で共和党候補が勝利しました。
選挙結果を見て個人的に驚いたのがフロリダ州でした。民主社会主義者であると公言するアンジー・ニクソン氏が、あと少しでルビオ国務長官のお膝元で上院議員になれそうだったからです。ニクソン氏は、DSA(民主社会主義者団体)にも加入している左派候補なので、民主党の主流派が警戒してほとんど支援しなかったのです。彼女がルビオ氏の地元で大接戦を演じたことは象徴的でもありました。
――フロリダは当然共和党だろうと思われていた中での、この接戦は驚きでした。
「もう少し党として組織的な後押しがあったら……」という結果でしたね。ニクソン氏は負けましたが、これは重要な意味を持ちます。これまで民主党内では、「左派は本選で勝てない。中道派で行こう」というのが主流派の決まり文句でした。しかし蓋を開けると、今回、左派であることがネックになっている州は、どうやらない。むしろニクソン氏のように、医療問題などを強く訴えられる「根性のある左派議員」たちが躍進しています。
この結果は、共和党にとっても示唆に富んでいます。政治権力と癒着したビジネスと戯れていては、選挙に勝てない。共和党は再びどうやって「庶民の党」「労働者の党」のイメージを取り戻すか、模索が始まるでしょう。そして民主党も、今回過半数を奪還したからといって決して安泰ではなく、左派が躍進したことによって主流派のあり方が問われることになります。
