宗教的倫理を掲げながら救済を訴えた
今のトランプ政権はピート・ヘグセス国防長官(福音派)やJ・D・バンス副大統領、マルコ・ルビオ国務長官(共にカトリック)などキリスト教徒が多いですが、その政権下では信仰が移民排斥に使われてきました。バンス副大統領などは、キリスト教の概念を用いて「家族や共同体を大事にすべきだ」と移民排斥を正当化しました。こうした言説が受け入れられていた時期もありましたが、ICE(移民・関税執行局)による暴力的な取り締まりで死者が出るなど、多くの人が怒りを感じる出来事が続いた。テキサスはキリスト教徒のヒスパニック系住民が非常に多いので、なおさらです。
さらにイラン戦争と宗教が結びつけられ、政治が宗教を暴力的な方向に利用していることに憤るキリスト教徒もいました。そこにタラリコ氏が現れ、宗教的倫理を前面に掲げながら社会的・経済的弱者の救済を訴えたことは、とても新鮮に映ったのだと思います。
――J・D・バンス副大統領の地元でもあるオハイオ州では、民主党のシェロッド・ブラウン氏が当選しました。
バンス副大統領にとって、この中間選挙は2年後の大統領選で最有力候補となるための一つのステップだったはず。しかし蓋を開ければ、彼のお膝元であることが選挙結果に影響を与えることはなく、民主党が勝利。ブラウン氏は労働者保護で長い実績があり、寂れた工業地帯であるオハイオに非常に適した候補でした。民主党側は「民主党はエリートの党になった」という批判を反省し、ブラウン氏のような候補を立てるなど、候補者の選定で成功した面があったと思います。
中傷キャンペーンに愛想を尽かした
――オハイオ州では知事選も民主党候補が勝利しました。
オハイオ州では、データセンター問題が民主党の追い風になりました。AIへの懸念が高まる中で、データセンターを誘致した共和党州政への批判が強まったのです。知事選では、共和党のヴィヴェック・ラマスワミ氏が、対立候補である民主党エイミー・アクトン氏と長年絶縁状態にあった母親をCMに登場させ、候補を中傷させるという選挙広告を展開しました。
今回の選挙戦は、何より物価高など生活の問題が争点だったにもかかわらず、共和党は相手候補への個人的なダメージを与えるような中傷ばかりしていた。本来であれば自分たちが2年間政治を担ってきた実績を語るべきなのに、語れる実績がなかったという事情もあるでしょう。相手がムスリムの候補であれば信仰の問題を持ち出して貶めたりと、中傷が目立ちました。タラリコ氏もすさまじい中傷キャンペーンにさらされましたが、人々はこうした空虚な空中戦に愛想を尽かした面もあったと思います。
――ミシガン州では、アブドゥル・エルサイード氏が当選し、ムスリム初の上院議員が誕生しました。
ミシガン州は、左派の候補であるアブドゥル・エルサイード氏と、トランプ大統領の盟友の一人であるマイク・ロジャーズ氏の戦いとなり、非常に象徴的な意味を持つ選挙戦でした。
エルサイード氏の国内政策で最も重要な主張は「国民皆保険」です。先進国でほぼ唯一、国民皆保険がないために、費用を理由に必要な医療を断念したり、先延ばしにしたりしている人も非常に多くなっています。対外政策ではイラン戦争の中止、そしてイスラエルに対してはガザやヨルダン川西岸での暴力を理由に軍事支援を停止すべきだと主張しています。
