「バイロイト音楽祭」の民主化は素晴らしいことだが……
リヒャルト・ワーグナーの曽孫にあたる現在の総監督カタリーナ・ワーグナーが音楽祭を引き継いで数年が経ち、若いカタリーナの改革思考やバイロイト市からの要望もあって、「バイロイト音楽祭」はだいぶ「民主化」した。いわゆる「コネ枠」は大幅に削減され、多くの座席がインターネットで販売されるようになり、オフラインでのオーダーも待った年数が加味されるようになった。
キャンセルされた座席のネット即売なども行われ、2024年度からはさらに公平なシステムへと切り替わっている。僕も「コネ枠」がなくなったので、毎年母とネットで申し込んで、「今年は当たるかな」とドキドキしながら待つようになった。幸い今のところ、母と僕のどちらかは必ず、何演目かチケットを手に入れることができている。
「バイロイト音楽祭」の民主化は素晴らしいことだが、ちょっと残念な部分もある。ザルツブルクをはじめ欧州の音楽祭の楽しみに、ドレスアップがある。チケットにドレスコードが書かれているわけではないが、ザルツブルクでもバイロイトでも、男性はブラックタイ、女性はロングドレスという人がかつては多かった。しかしここ数年、特にバイロイトではかなり服装がラフになっている印象がある。とはいえ、これは他の事情も関係している。昨今の異常気象で、バイロイト音楽祭の開催時期に熱波が襲うことが増えたのだ。
バイロイトは基本的に冷涼で雨が多く、日本で言えば軽井沢のような気候である。だからかつてはホテルや民家に冷房はないことが多かった。いまでも祝祭劇場には音響のために冷房はなく、送風機があるだけだ。しかし数年前から、音楽祭シーズンの気温が30度を超えることが多くなった。それにともなって、観客の服装もカジュアルになっていったように思う。
僕も数年前、熱波のさなかのバイロイトに行った。外気温は38度。そして1700人を超える観客がぎゅうぎゅうに居並ぶ劇場内は、もはや蒸し風呂さながらの暑さだった。僕は毎年客席でもジャケットをずっと着用するようにしているけれど、あの年だけはどうにも我慢ならず、ジャケットを脱いで観劇した。それでも額からは汗がしたたり落ちた。
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