毎年夏に開催される「バイロイト音楽祭」をご存じだろうか。オペラ『ニーベルングの指環』をはじめ、リヒャルト・ワーグナーの演目のみが上演されるフェスティバルだ。今年は7月26日から始まり、当音楽祭が創設150周年を迎えるメモリアルイヤーでもある。
ワーグナーを熱烈に愛するワグネリアンのメルケル前首相もたびたび姿を見せているが、かつてはチケットの入手が困難で、クラシックファンの間で“幻の祝祭”として知られる。そんな垂涎の地へ23歳のころから通う、歌人であり作家の小佐野彈さんが、2023年当時の様子をレポートする。(2023年9月21日 文藝春秋PLUS https://bunshun.jp/bungeishunju より)
バイロイト音楽祭こそ最高峰の音楽祭
欧州各国の歌劇場は毎年6月にシーズンを終える。翌7月からは、「音楽祭」の季節がはじまる。欧州各地や世界中からセレブリティが集まり、ウィーン・フィルなど最高峰のオーケストラによるオペラやコンサートが毎夜上演されるオーストリアの「ザルツブルク音楽祭」。古代ローマ時代の円形劇場を舞台にしたダイナミックな野外オペラ公演で知られるイタリアの「ヴェローナ音楽祭」。イギリスでは資産家のクリスティ家が主催する「グラインドボーン音楽祭」などが知られている。
こうした夏の音楽祭の中の最高峰はなにかと問われると、好みにもよるので答えるのは難しい。ただ僕は、毎年7月末から8月末までドイツ・バイエルン州のニュルンベルク近郊にある小さな町バイロイトで挙行される「バイロイト音楽祭」(Bayreuther Festspiele)こそ最高峰の音楽祭だと思っている。
「バイロイト音楽祭」は1876年にワーグナー自身によって第1回が主催された歴史ある音楽祭だ。会場は、ワーグナー最大のパトロンであった当時のバイエルン国王・ルートヴィヒ2世から資金援助を得て、ワーグナー自身が設計した「バイロイト祝祭劇場」である。パリのガルニエ宮やウィーン国立歌劇場、あるいは東京の新国立劇場まで世界にオペラハウスは数あれど、この「バイロイト祝祭劇場」ほどユニークで、ストイックな劇場はない。
