裸の男女やかわいい犬がスクリーンから飛び出す!
今年、一番ワクワクさせてくれたのがカナダの神童グザヴィエ・ドランの『Mommy』と、巨匠ジャン=リュック・ゴダールの『Good Bye to Language』。25歳と83歳という年齢差58歳の2人の天才が審査員賞を分け合った。
グザヴィエは子役として活躍した後、19歳で撮った半自伝的な初長編『マイ・マザー』がカンヌの監督週間に選出されて以来、注目を集めてきたが、コンペティションでは初受賞。今までは自作に出演もしていたが、今回はカメラの裏側に徹してついに傑作をものにした。『Mommy』は問題を抱える十代の息子との関係に葛藤するシングルマザーの物語で、どうしてこんなに女性の気持ちがわかるのか、怖くなるほど。画面をスクエアに使った映像がとても斬新で、オアシスの「ワンダーウォール」と共に少年が駆け出すシーンをぜひとも観てほしい! ワンダーウォール(魔法の壁)とは何かがきっとわかるはず。
一方、映画の型を破った『勝手にしやがれ』から55年、ゴダールは初めての3Dで映像と言語の壁をぶちこわした。飛び出すならこれだろ、とばかりに裸の男女や、かわいい犬、大きな客船などが次々とスクリーンから飛び出してくる。まさに「考えるな、感じろ」(byブルース・リー)の世界。やっぱり3Dを最初に考えた人って、裸の男女が観たかったんじゃないの?「言語に別れを」(原題)告げている映画にメッセージを探すなんて余計なお世話だけど、「男(女)に飽きたら犬を飼え」ってのはびしびし伝わってきた。とにかく自由な映画なのだ。
また、ベネット・ミラー(『マネーボール』)が監督賞を受賞した『Foxcatcher』は、デュポン財閥(ナイロンを発明した会社)の御曹司がオリンピック選手を殺害した実際の事件を追った正統派のサスペンス。犯人と被害者の心理がこちらも怖いほど伝わってくるのと同時に、40歳の童貞男ことスティーブ・カレルと、チャニング・テイタムの演技合戦が凄まじい。カレルの犯人への成りきりぶりも驚いたが、裸自慢だと思っていたチャニングがいつの間にこんなに成長していたんだ、とびっくり。
しかしこの2人をさしおいて、英国のティモシー・スポールが『Mr. Turner』で風景画家ターナーを愛嬌たっぷりに演じて男優賞をさらってしまった。もっとも、こちらはなんと脚本なしだったというのだから脱帽だ。監督は『秘密と嘘』や『家族の庭』のマイク・リーで、伝記ものでも即興重視という手法を変えないのがさすが。こちらは日本公開が未定なので、ぜひともどこか買ってほしい。
というわけで、「なのに私はカンヌへ行くの」の理由が少しおわかりいただけたかな。次回は、「あなたもこれでカンヌに行ける」をお教えします。
石津文子のカンヌ映画祭追っかけ日記2014
2014.07.20(日)
文・撮影=石津文子
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