蒼い海と美しいビーチあり、南蛮文化に影響された独特のカルチャーあり、キリシタンの歴史が育んだロマンティックな風景あり。さらに、山海のグルメに恵まれ、ラグジュアリーなホテルから庶民派の温泉まで揃う天草は、旅好きには魅力満載の島。長崎の教会群とともにユネスコ世界遺産への登録を目指す天草の魅力を7回に渡ってお伝えします。

» 第2回 17世紀、天草の宣教師も食べていた? オリーブと天然塩作りの理想郷
» 第3回 “陶磁器のふるさと”天草の個性的窯元と平成に甦った天草更紗を訪ねて
» 第4回 東シナ海に沈む太陽が感動的 天草夕陽八景と絶景温泉ベスト5
» 第5回 静かな漁港に望むゴシック様式の天主堂 キリシタンの歴史が息づく祈りの島
» 第6回 海からの風に南蛮文化の香り漂う 天草らしさを満喫できる個性派ホテル
» 第7回 日本ではじめて、いちじくが到来した島 南蛮の香り漂う天草のスイーツとグルメ

天草のイルカはなぜ人なつっこい? 素潜り漁師との共生が生んだ信頼

 関東以北の人にとって、天草の印象はちょっと薄いかもしれない。天草は、熊本県南西部にある2つの大きな島(上島と下島)と大小数百の島々からなる諸島。九州本土とは、5つの橋「天草五橋」で結ばれている。上島と下島の間はごく狭い海峡で隔てられているものの、橋と歩道橋で繋がり、ひとつの大きな島のような感覚だ。

高確率で出会えるイルカたち。しかも、かなりの至近距離。 写真提供:ドルフィンクルーズ
波を切って進むイルカたち。想像以上のスピードにびっくり。

 天草の通詞島沖合は、200頭もの野生イルカが暮らすドルフィン天国。長崎県の島原半島との間にはさまれた海域は栄養豊かな有明海と外洋の東シナ海がつながる場所。「早崎瀬戸」と呼ばれ、日本三大潮流のひとつに数えられている。そんな温暖な気候と新鮮な魚介類を気に入った野生のミナミハンドウイルカたちが棲みつき、一年中、群れをなして泳いでいるのだ。イルカとの遭遇率は、なんと98%。国内でイルカに出会えるスポットはいくつかあるけれど、いつ来ても高い確率でイルカに出会える場所は、とても貴重。

親子イルカ? すぐ近くまでやって来てくれて、しばし船の回りを遊泳。
この写真、何頭のイルカが映っているでしょうか? 船を真下から追い抜いていく、人なつっこいイルカたち。

 船の下を行ったり来たりしたり、水面にひょっこり顔をだしたりと、イルカたちは船を警戒することもなく、手が届きそうなところまで寄ってくる。哺乳類のイルカは、海面に浮上して呼吸もする。プハーッという息の音を間近で聞くのも新鮮。案内する漁師からは、「あの子は先週、子供を産んだんだよ」、そんな話も飛び出して、漁師とイルカとの距離の近さにも驚かされる。

豊かな漁場に恵まれ、大規模な漁法に頼ることなく漁を行う通詞島。イルカたちはツアーの船にも安心して近づいてくる。

 天草のイルカが人懐っこいのには理由がある。それは、豊かな海での、素潜り漁の漁師とイルカの共生エピソード。通詞島では、昔から定置網など大規模な漁法に頼ることなく、一本釣りや素潜りで漁が行われている。野生のイルカが安心して生息できる環境が保たれてきたのだ。また、群れを作って行動するイルカたちがいるかぎりサメが沖に近寄ることはない。漁師たちにとっても安心して素潜り漁ができるありがたい存在、というわけだ。

イルカウォッチングツアーを開催している「ドルフィンクルーズ」の受付。大人2名より催行。

 通詞島でイルカウォッチングをするには、沖合を1時間ほど巡り、イルカを至近距離で観るツアーに参加するのが一般的。クルーザーや漁船などいろいろなタイプの船が出ているが、よりイルカとの距離を縮めたいなら、天草の海とイルカを熟知した地元漁師が案内するツアーがおすすめだ。

イルカウォッチングを案内してくれた素潜り漁の漁師さん。「たまには海も荒れる。でも、台風は海を耕してくれるんだよ」。そんな海の男の話にも興味津々。

ドルフィンクルーズ
電話番号 0969-33-0881
URL http://dolphincruise.jp/

2014.06.26(木)
文=芹澤和美