この記事の連載

世界とは無関係に、私たちは幸せになることができる

「私のお父さんさ、ずっとアメリカ人だって言ってたんだけど、身分証偽造してたらしくて、ほんとはナイジェリア人だったんだよね。私、ナイジェリアのハーフだった」

 さっそくヤバい話が出てきてしまった。そんなことがネット民に知れたら大変なことになってしまう。私たちは涙が出るほど笑いながら「なんも言えねぇな」と目を伏せた。私たちはもうアラサーである。自分の立場も、家族の罪もしっかりと解る年齢で、それに対してネットでいくらヘイトを食らったところで、周囲の大切な人たちが去っていくこともないと知っている。どれだけ社会的に自分の属性が蔑まれていたとしても、私たち個人は勝手に自分を律することができるし、愛されることもできる。世界とは無関係に、私たちは幸せになることができる。世界は世界で、私は私。もう大人だもの。私たちはそれぞれ苦しんで、全然違う方向に飛んでいくことになった。解き放たれた、彼女の美しい黄金の身体。私が望むように抑圧され続ける、私の身体。彼女は呪いを手放し、私は呪いと一緒に生きる。もし今、あの日の始発の私たちのような気持ちで過ごしている子どもたちがいたとして、私にいったい何ができるだろう。私にもリアナにも、きっとあの時間は必要だったんじゃないかと思う。自分にかけられた呪いについて、どうか苦しみ抜いてほしい。それは誰にも預けられないし、あなた以外の誰にも重さは量れない。

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伊藤亜和(いとう・あわ)

文筆家・モデル。1996年、神奈川県生まれ。noteに掲載した「パパと私」がXでジェーン・スーさんや糸井重里さんらに拡散され、瞬く間に注目を集める存在に。デビュー作『存在の耐えられない愛おしさ』(KADOKAWA)は、多くの著名人からも高く評価された。その他の著書に『アワヨンベは大丈夫』(晶文社)、『わたしの言ってること、わかりますか。』(光文社)。

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Column

伊藤亜和「魔女になりたい」

今最も注目されるフレッシュな文筆家・伊藤亜和さんのエッセイ連載がCREA WEBでスタート。幼い頃から魔女という存在に憧れていた伊藤さんが紡ぐ、都会で才能をふるって生きる“現代の魔女”たちのドラマティックな物語にどうぞご期待ください。

2025.10.07(火)
文=伊藤亜和
イラスト=丹野杏香