たくさんの片思いが、満天の星の如くささやかにきらめく

 

今月のオススメ本
『星よりひそかに』柴崎友香

6人の語りで進む、7篇の片思い相関図。装画は柴崎さん憧れのマンガ家・くらもちふさこさんが担当。「くらもち先生の描く男子がカッコ良くて大好きでした。『チープスリル』という、先生の作品にも今回すごく影響を受けています」
柴崎友香 幻冬舎 1,300円
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「恋は思い込みと呪い」というのが、柴崎友香さんの持論。

「『この人じゃないと!』と思った時点で呪いだし、そんなはずはないのに、自分で自分にかけてしまう(笑)。ただ、その呪いにかかっているときにしか感じられない、大切なこともたくさんあるんですよね」

『星よりひそかに』は、そんな呪いの渦中にいて、バランスの悪い恋に身をやつしている男女の物語。

 恋人の部屋で彼宛てのラブレターを見つけてしまって心が波立つ女性、わけもわからずわずか半年で結婚と離婚を経験したバーテンダー、つき合っているはずの彼と会えなくて悶々とする売れっ子モデル……。

「私は、すべての恋愛は片思いではないかと思っているんです。たとえつき合っている人同士でも、突き詰めてみれば、好きに温度差があったり、好きのポイントがずれてたり。100%同じ気持ちかというと、たぶん違う。だから片思いって、すごく恋らしい恋でもあるわけで」

 そもそも柴崎さんがこれまで書いてきた恋愛は、そうした片思いや失恋の話ばかりではあるが、「今回はもっと、誰かが誰かを好きで、その誰かをまた違う誰かが好きで……という関係性を意識しました。しかも恋愛真っ直中にいて周りが見えなくなっている当事者ではなくて、人の片思いを横から見て自分の気持ちも揺さぶられる、そんな視点から、人が人を思うことの不思議を切り取ってみたかったんです」。

 誰かを思っているからこそ、違う誰かの気持ちにも気づいてしまう。感化されて、自分の思いがむき出しになる。そう、本書には、「人が人を思う気持ち」が、星よりひそかに、無数に、きらめいている。

「この中には、年に1回『好きです』とひと言だけの告白電話をする男の子や、元カレの妻のブログチェックを止められない二児の母など、普段の自分ならやらない常軌を逸した行動に出る面々が登場しますが、それも恋というフィルターを通すと『やらかしてしまう気持ちはわかるな』と共感してしまうから面白い」

 ともすれば「どうなのそれ?」とツッコミたくなるようなヘンな行動も、ヘンなりに愛おしいと柴崎さん。

「でも、かつての自分自身といちばんかぶるのは〈なんでみんな、恋なんていうややこしい感情をわざわざ持とうとするんだろう〉って言っている女子高生のゴンちゃんですね。〈べつに、なくていいな、そういう気持ち〉と言っている彼女も、いずれは恋をするかもしれませんが」

柴崎友香 (しばさき ともか)
1973年大阪府生まれ。99年短篇「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」でデビュー。2010年『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。

Column

BOOKS INTERVIEW 本の本音

純文学、エンタテインメント、ノンフィクション、自叙伝、エッセイ……。あの本に込められたメッセージとは?執筆の裏側とは? そして著者の素顔とは? 今、大きな話題を呼んでいる本を書いた本人が、本音を語ります!

2014.07.01(火)
文=三浦天紗子

CREA 2014年7月号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

人生にアートを!

CREA 2014年7月号

アート、足りてる? 
人生にアートを!

特別定価780円