台湾国外での展示は初となる門外不出の秘宝

翡翠の色を生かした写実的な造形で収蔵品中最大の人気作。
翠玉白菜 清時代・18~19世紀 (展示期間:6月24日~7月7日/東京のみ) 台北 國立故宮博物院蔵

 故宮博物院の名を冠する美術館は世界に2カ所ある。ひとつは中国の北京に、もうひとつは台湾の台北に。「故宮」とは読んで字のごとく「OLD PALACE」を意味し、中国最後の王朝となった清朝の宮殿「紫禁城」を指す。

 清朝の歴代皇帝が蒐集した文物は、その末期にかなりの数が散逸したが、そもそもの収蔵数が桁外れであったため、辛亥革命後もなお十分な質量を保っていた。中華民国政府は旧紫禁城の一角を美術館とし、1925年にこれを一般公開したが、1933年、日本の中国進出に危機感を抱き、収蔵品は外交文書などと共に、南京、湖南省、貴州省、四川省へ避難させる。戦争終結後、収蔵品は南京の故宮分院へ戻されたが、国共内戦が勃発すると、国民党は「中華文明の精華」である文物の一部を台湾へと運んだ。

 こうして北京と台湾に、二つの「故宮」が並立することになったのである。

青磁の最高峰、北宋・汝窯(じょよう)の傑作。
青磁輪花碗 汝窯 北宋時代・11~12世紀 台北 國立故宮博物院蔵

 2012年、東京国立博物館で日中国交正常化40周年を記念した特別展「北京故宮博物院200選」が開催され、中国美術史上の至宝である北宋時代の《清明上河図》が出展された時には息を吞んだが、台北・國立故宮博物院のアジア初となる今展は、東京・福岡2会場で開催、かつ台湾国外での展示は初となる門外不出の秘宝《翠玉白菜》《肉形石(にくがたいし)》の2点も出展されるというから、その本気の度合いが知れるというものだろう。


瑪瑙を染め、彫って豚の角煮を表現。
肉形石 清時代・18~19世紀(展示期間:10月7日~10月20日/九州のみ) 台北 國立故宮博物院蔵

 全体で69万点と言われる収蔵品の9割は清朝時代の皇帝コレクションであり、明・清の書画、また陶磁器、染織、漆工など工芸品を中心に、皇帝個人の好みを濃厚に反映しつつ、中華文明の全体像が見渡せるもの。

 今展では、皇帝が何を求めてこうした美術工芸品を作らせ、蒐集してきたのかを大テーマに、祭祀を通じて神と交信し、王権の正統性を示すために作られた古代の青銅器から展示をスタート。中には4500~3900年前の祭器に、清朝の乾隆帝が文物を蒐集する動機を詩として彫らせたという、時代を超えたコラボレーション(?)作品も。科挙官僚、同時に地主・文人でもあった指導者階級の「士大夫」たちが学問や芸術を担い、「東洋のルネサンス」とも称される文化の高揚が見られた宋・元時代からは、制作者の人格を表出した書画や、官窯磁器の最高傑作を紹介。

 コロンブスより遥か以前に中東まで到達する「大航海」を成し遂げた鄭和(ていわ)がもたらしたイスラム文化を反映する工芸品や、漢民族が培ってきた文化を再編した満州族の王朝・清朝の遺産など、時間的にも空間的にも巨大すぎて、なかなか全体像を摑みにくい中華文明の本当の姿を垣間見ることができるはずだ。

角煮(東坡肉)を考案したとされる北宋の文人・蘇東坡が左遷中に記した。
行書黄州寒食詩巻 蘇軾(蘇東坡)筆 北宋時代・11世紀 (展示期間:8月5日~9月15日/東京のみ) 台北 國立故宮博物院蔵

特別展『台北 國立故宮博物院─ 神品至宝─』
URL http://www.taipei2014.jp/
会場 東京国立博物館 平成館、本館特別5室
会期 2014年6月24日(火)~9月15日(月・祝) 
料金 一般1,600円(税込)ほか
電話番号 03-5777-8600(ハローダイヤル)

会場 九州国立博物館
会期 2014年10月7日(火)~11月30日(日) 
料金 一般1,600円(税込)ほか
電話番号 050-5542-8600(ハローダイヤル)

2014.06.14(土)
文=橋本麻里