ドラマでは八木は戦後、1946年夏に再登場する。高知新報の記者として東京出張中の嵩とのぶが偶然再会するのは、市場の一角で孤児たちにコッペパンを配り、本の読み聞かせをしている八木の姿だった。戦後の八木は闇酒を作って生計を立てながらも、恵まれない子ども達に食べ物と教育を与える活動を続けていた。

 7月14日放送の第76回では、のぶがカメラを子どもにひったくられた際、八木が子どもからカメラを取り返し、「(窃盗は)盗られた人も、お前も幸せになれない」と諭すシーンが描かれた。子どもが「分からない」と言うと、八木は笑顔で「じゃあ、勉強だな!」と応じる。戦時中の厳しい表情とは対照的に、戦後の柔和な表情は子ども達に希望を与えるものとなっていた。

 そんな八木は、実は密造酒で得た金で子ども達に食べ物を振る舞い、読み書きを教え、さらに身寄りのない子どもには引き取り先を見つけたりもしていたことが後にわかる。腹が満たされるだけでは「人間」としての尊厳は守られない――そんな人間の真理を見せてくれる存在でもある。

北村匠海とは“17年ぶりの共演”

 妻夫木と主演の北村は映画『ブタがいた教室』(2008年)以来、17年ぶりの共演だった。前作では妻夫木が担任の星先生、北村がその生徒の拓実を演じた。妻夫木は「当時、匠海はまだ小学4年生。今、彼の出演する作品でこうやって共演できているのは本当にうれしいです」(スポニチアネックス、6月9日)と感慨している。

 北村は「『ブタがいた教室』では生徒役の僕らは子供というリアルさが求められていて、台本が与えられていたというよりはほぼアドリブで。この映画も命を題材にしていて、僕の人生でも忘れられない作品なんですけど、今回『あんぱん』でまた妻夫木さんに出会うというところに運命を感じましたし、戦争パートで妻夫木さんが横にいてくれたのはすごくありがたかったです」(マイナビニュース、6月7日)と振り返る。

『あんぱん』制作統括の倉崎憲氏が妻夫木について「戦地で嵩と出会い、戦後も長きに渡って大きな影響を与えていく人物」(音楽ナタリー、8月1日)と評価している。妻夫木が自身初の朝ドラで八木という人物を演じたことには、大きな意味があっただろう。

「朝ドラに呼ばれることはないんだろうなと思っていた」セリフ1つのみ→再登場は“神回”に…二宮和也(41)の『あんぱん』配役に圧倒的な説得力があるワケ〉へ続く

2025.08.27(水)
文=田幸和歌子