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ルームメイトは3体の愛らしいお人形

――先ほどから気になって仕方がないので、キッチンにいらっしゃる方々をご紹介していただけますか。

 みゆきちゃんは、1軒目の事故物件から連れ添っている赤ちゃん人形で、もとは松竹芸能養成所の小道具でした。コントで使ったりすると、お客さんのアンケートに「コント中にあの赤ちゃん人形の顔が変わった」とか、「怒ってる」「悲しんでる」といったコメントがくるようになり、気味悪がられて使われなくなっていたのを僕が譲り受けました。

――みゆきちゃんはタニシさんに恋しているとか。

 そうですね。この人形をテレビの番組収録に持っていったとき、共演した女の子が「みゆきちゃんと目が合う。恐いです」と。しかもその晩、「みゆきちゃんが枕元に来て、部屋中を高速で飛び回っていた」と怯えていました。

――みゆきちゃん、嫉妬しちゃったのかな?

 この7月に公開の映画「事故物件ゾク 恐い間取り」で山田真歩さんが演じているオカルトライターが常に市松人形を持っているのですが、菊姫はそれに通じるものがあるかなと。

 菊姫を引き取った日の夜、公園で遊んでいる夢を見たんです。おしっこしたいのを我慢しながらブランコに乗ったりして。そして朝、起きたら、おねしょしてました。もう30代後半だったんですけどね。

――その菊姫から出てきたのが、孔子くんですね。

 はい。上半身と下半身が真っ二つに割れていて、その隙間に別の市松人形(現・孔子くん)の首が収納されていました。首の裏に「東光」という文字が書かれていて、調べてみると松乾斎東光という市松人形作家の作品であることがわかりました。千葉県の人形工房まで会いに行くと、孔子を作った方はすでに引退されていて、跡を継いだ息子さんの4代目東光さんが「確かに親父の作品です」と。せっかくなんでということで、体をつくってくれたんです。

――顔は3代目がつくり、体は4代目が。孔子くんもうれしかったでしょうね。

 でも、その後2回も顔が割れちゃったんですよ。最初はテレビ番組の取材で、「事故物件だけでもアレなのに人形までいると情報量が多すぎる」と言われて移動しようとしたら首がポロリと落ちて、パリーンと。また東光さんのところで直していただいて。

 2回目は、僕が「あと5年ですべてを失います」と予言されていた時期で、せっかくなので生前葬みたいなイベントをやったんです。ラストで祭壇が真っ二つに割れて、そこから新しいタニシが生まれるという演出で。

 祭壇に彼ら3人が乗ってたんですが、その祭壇を移動させるときにまた孔子の首が落ちて……。もしかしたら僕の身代わりになってくれたのかなと思っています。

2025.07.18(金)
文=伊藤由起
写真=志水 隆