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 事故物件住みます芸人として知られる、松原タニシさんの新著は『事故物件怪談 恐い間取り4 全国編』(二見書房刊)。近々、映画『事故物件ゾク 恐い間取り』も公開(2025年7月25日/監督:中田秀夫、主演:Snow Man 渡辺翔太)ということで、この夏も大忙しのタニシさんに制作秘話を聞きました。取材場所に指定されたのは、著書にも収録されている都内某所の事故物件。不吉な予感でいっぱいです。


歌を歌うと怪奇現象が起こる事故物件

――新居にお招きくださいまして、ありがとうございます。なぜこの物件を借りることに決めたのでしょうか。

 新著のテーマを「全国編」として、全国各地の事故物件を同時に借りていたのですが、最後に借りることになったのが関東でした。いくつかの候補からここを選んだ理由のひとつは、東京を象徴するような“孤独死”による事故物件だったからです。住んでいたのは80代の女性で、30年間この部屋に暮らしたそうです。

――住み心地はいかがですか。怪奇現象などは……?

 23区内なので、とても便利です。不動産屋さんによると、亡くなった方はよく大きな声で歌を歌っていたそうで、ご近所からの苦情もたびたびあったらしいです。そのせいかどうかはわかりませんが、歌を歌うとおかしなことが……。

 先日YouTubeの生配信をしたときも、歌うと配信が止まったり、プロデューサーが「イヤホンから女の人の声が聞こえました」と言ってきたり。他の番組の収録でも、変な音が入ることがありました。

 それと、気のせいかもしれませんが、夜中に「フンフンフン」みたいな鼻歌が聞こえるような気がするんですよ。普段、隣の方の生活音などはあまり聞こえないのですが。

――不思議ですね(恐すぎる)……。昨年の夏は『恐い怪談』という著書で「恐いって何だろう、怪談って何だろう」という考察をされていましたが、今回改めて、第4弾となる『恐い間取り』に取り組まれた理由とは?

 『恐い間取り』の1と2は、自分の生活の拠点を事故物件にして何が起こるかという試みでした。3は事故物件のパターンを収集しようと思い、特に事故物件に住んだことで不幸に見舞われたという事例を集めました。

 そして4のテーマは「場所」です。仕事の都合上、僕が借りる事故物件は関西と関東に偏りがちなのですが、エリアを広げて、違いを探ってみようと思ったんです。それぞれの地域での事故物件との向き合い方、感じ方、死生観などを、その地の事故物件を借りることで確かめてみようと。

 そんなわけで、今は北海道、東京、愛知2軒、京都、徳島、福岡で、計7軒を同時に借りています(※取材時点)。

――7軒! で、地域による違いがあったりするのでしょうか。

 さすがにその7軒だけで地域性を語るのは乱暴かもしれませんが……いろいろな地域で借りても、どこか通じるものがあるというか。人間が忌避するもの、怖がるものの共通点が、少しだけ見えてきたような気がしています。まだ輪郭程度ですが。

――『恐い怪談』の考察は今も続いているわけですね。

 そういうことになりますね。

――『恐い間取り4』で紹介されている物件には、「結局、事故物件ではなかった」という物件も含まれます。それでも十分に気味が悪いと思いましたし、その物件に入れと言われたら「恐い」と思います。

 実際、事故物件でもなんでもないただの空き家でも、恐い・気味が悪いと思う人は多いですよね。人はわけのわからないものを怖がり、「幽霊」「事故物件」といった呼び名をつけて、なるべく関わらないようにする。

 でも、そこにコミュニケーションあれば、意識はだいぶ変わると思うんですよ。僕の場合は、住んでみることで事故物件やかつての住人とコミュニケーションを図っているとも言える。住むことでしかわからないことって、あるんですよ。

2025.07.18(金)
文=伊藤由起
写真=志水 隆