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新著収録の事故物件でいちばん怖かったのは

――「恐い」という感覚がややバグっている気がするタニシさんですが、新著に収録されている中で、恐いと思った物件はあるのでしょうか。
うーん、あったかなぁ……あ、京都の物件は恐かったですね。
――メゾネットの物件ですね。前の住人の方がその階段から落下して亡くなり、2カ月後に発見されたという。内見のときも、階段下の床に生々しい痕跡があったとか。
はい。でもそれが怖かったわけではないんですよ。入居前にリフォームも入りますし。入居初日に、亡くなった階段下で寝てみたりもしたのですが、思いのほか心地よく眠りにつくことができましたし。
――……。
あるとき、アパートの近所に住んだことがあるという方にお会いして、「とにかく火事が多かった」という話を聞いたんです。その5日後、仕事で大阪にいた僕のもとに「アパートの近所が燃えている」という電話があったんですよ。戻ってみると、あたりはまだ焦げたにおいが充満していました。あれはちょっと驚いたし、怖かったですね。

――嫌なシンクロニシティ。こうした不気味な話から、ちょっとコミカルな話、ものすごく深い闇を感じる話など、いろいろなタイプの話が絶妙な構成で展開されるのが、タニシさんの本の醍醐味だと思います。
パズルのように構成を考えるのが大好きなんです。事故物件を探したり、話を聞いたりするのも、パズルの足りないピースを探す感覚に似ています。時間さえあれば全都道府県で1軒ずつ事故物件を借りる、とかもやってみたかったのですが。
それはさすがに無理かな~と思っていたところで、本の冒頭で紹介している「福岡のウィンチェスターハウス」(増築増築増築……を繰り返した謎の家)に出合ったんです。物件としての面白さはもちろん、ご遺族の方にも貴重なお話を聞くことができたので、けっこうなボリュームになりました。
――ご遺族の方がまた、けっこう明るいというか。
明るかったですね~。物件を仲介してくれたゲームクリエイターの日浦さんや、なぜか変な物件ばかり管理している不動産屋さんのご夫婦、収集癖と霊感のある喫茶店のご主人も、今回収録した福岡の方は、みんなキャラが立っていました。
――福岡編だけで映画が1本撮れそうです。
そういえば、映画『事故物件ゾク 恐い間取り』も九州から始まるんですよ。それで、本とリンクさせたら面白いかなって。
2025.07.18(金)
文=伊藤由起
写真=志水 隆