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ゼロベースからファームプロジェクトがスタート

――トマムに着任して、まずどんなことから始めたのですか?

宮武さん 決まっていたのは、旧ゴルフ場エリア約100ヘクタールをファームエリアとすること、ベテラン畜産家の海野泰彦さん(株式会社ファームデザインズ代表)というパートナーがいることくらい。つまり、ほぼゼロベースです(笑)。まずは、牛を迎え入れるための土壌検査や、草をより栄養価の高い草に変えること、牛舎の建設などから着手していきました。

――牛は何頭から?

宮武さん 2018年に初めて5頭の乳牛を迎えました。乳を出し始める前の若い牛です。飼育環境のキャパに対して頭数を抑えたのは、生乳の出荷先がなかったから。1頭が1日に出す生乳は約30リットル。年間1000リットルくらい出してくれるので、その消費先を確保しなければならないのですが、出荷って、けっこうハードルが高いんですよ。

 一般的な酪農の場合、農協のタンクローリーが牧場を回って生乳を集め、工場へ運び、殺菌などを経て「牛乳」になります。でもここは僻地なうえ、新規となると農協との取引も難しくて。

 牛が出す生乳の全量を自分たちで加工・消費する道を探るしかなかったんです。搾乳は2019年の秋にスタートすることが決まっていたので、まずは牛乳工場だけでも整備する必要がありました。

 今では牛舎のすぐ近くに、牛乳工場とチーズ工房があります。そこでつくられている低温殺菌・ノンホモジナイズ製法の牛乳や、ソフトクリーム、ヨーグルト、チーズなどの乳製品は、リゾート内のレストランやカフェ、ショップなどで楽しんでいただけます。

知れば知るほど奥深い牛の個性と魅力

――全量消費が可能なのは、たくさんのお客さんで賑わうリゾートだからこそですね。今は何頭くらいの牛がいるのですか。

宮武さん 42頭です(※取材時点)。3分の2は搾乳量の多いホルスタインで、残りがブラウンスイスとジャージー。種類によって性格に違いがあって、ホルスタインは穏やかでちょっと臆病、ブラウンスイスは主張強めで、ジャージーは人懐こい子が多いです。

 生まれて1~2ヶ月の哺乳期はまだ子どもっぽくて、ただただかわいいのですが、3~4ヶ月くらいになると、人間で言えば中学生のような反抗期っぽさが出てきて、なかなか触らせてくれなくなります。大人になるとまた、おおらかになる。

――一頭一頭、見分けはつくのでしょうか。

宮武さん 40頭以上となると正直、すっと名前が出てこなくなりますね。一緒にするのもなんですが、学校の先生って大変だなと思いました(笑)。世代的に、小学生のときは1クラス40人くらいだったので。

――牛の種類によってミルクの味も違うと聞いたことがあります。

宮武さん かなり違いますよ。ホルスタインはあっさりしてクセがなく、ジャージーは濃厚でクリーミー、ブラウンスイスはコクがありチーズの原料に向いています。また、同じ種類の牛でも、生まれた季節によって味が変わります。毎夏ファームで開催しているプログラム「モーモー学校」では、個体別のミルクの飲み比べなども行っているので、ぜひ参加してみてください。

2025.07.17(木)
文=伊藤由起
写真=志水 隆
写真協力=星野リゾート トマム