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“中くらいのおじさん”のリアルな生態と人生訓

――奥田さんの場合、ゲームセンターのクレーンゲームにハマったりとか……。

 子どものころ欲しくても手に入らなかったものへの憧れって、みんなあると思うんですよね。ナイキのスニーカーなんかも昔一度ブームになったじゃないですか。あのとき買えなくて悔しい思いをした子が、おじさんになって買えるようになったことで再ブームになったんじゃないかと。それが僕の場合はクレーンゲームだったんです。今ならある程度自由に100円玉使えるんで。

――クレーンゲームで取ったファンシーなグッズたちはご自宅に?

 それで部屋ひとつ潰れてます。もうゲームセンターのバックヤードみたいになってますから。

――いっそクレーンゲームの筐体ごと買ったらいいんじゃないですか。

 そう思って調べてみたんですが、あれは買うもんじゃなく基本的にリースしかないんですね。買ったらバカみたいに高く付くらしいので、さすがに諦めました。

――そんなおじさんの何気ない日常が淡々と綴られているところも、この本の味わい深さだと思います。

 noteを書き始めたのはコロナ禍で、仕事も収入も不安定でしたし、劇的な出来事も特になくて。生産的なことは何もしていないということを長々と書いてます。

 ギラギラしてて生きるエネルギー満タンのおじさんって、けっこう怖くて見ていられないと思うんですけど、逆にションボリしているおじさんっていうのも、哀愁がありすぎて悲しくなってくるじゃないですか。でも、実際はそんな極端なおじさんばかりじゃないんで。世間ではあまり語られることのない、中くらいのおじさんの生態を知っていただければと思います。

――奥田さんは、そこまでのおじさんには見えませんが。

 いやいや、もう体はもう十分衰えてます。腰も痛いですし。腰が痛いからといって腰をトントンすると余計痛くなるんで、お尻のあたりをトントンしてしまうくらいにはおじさんですよ。誰に習ったわけでもなく、そういう動きになるんです。普通に衰えながらも楽しく生きている、中くらいのおじさんです。

2025.07.01(火)
文=伊藤由起
写真=佐藤 亘