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「こういう生き方もあるよね」が自然とにじみ出たらいいな

――前シリーズ『裸一貫! つづ井さん』は、世間一般の価値観にとらわれず、好きなことをする生き方が大きな共感を呼びました。そういった価値観を積極的に提示してはいないものの、裏テーマ的に感じてもらえればという思いもあったのではないでしょうか。それに対して『とびだせ! つづ井さん』は、全体的によりフラットな視点になっている印象を受けました。

 今言ってもらった、フラットという言葉が私の中でしっくりくる気がします。誰が見ても面白いこと、変なこと、イレギュラーなことじゃなくても、私が描きたいと思ったら気張らずに描いていいんだっていう気持ちに、年々なってきているので。『裸一貫!』のときの、「こういう生き方もあるよね」というような主張が内面化されてきている感じも、たしかにあります。わざわざメッセージとして入れ込まなくても、今は自然とにじみ出ていたらいいなと思っています。

――環境を変えて、大小問わずいろんなことをやってみる姿に、背中を押してもらえる読者も多いのではないかと思います。1巻のあとがきでも触れていましたが、新しいことを始めたり、何かしら選択を迫られたときに大事にしていることを教えてください。

 もし専業の漫画家になる選択をしなかった場合、別の世界線を生きている私が、今の私を見て「そっちも楽しそうなことしてるね!」と言ってくれるようなことを常に選びたいと思っています。お仕事をお受けするときも、日常で何かに挑戦するときもそれは一緒です。というのも私は損得勘定みたいなのがとても苦手で、「これはしておいたほうがいい、しなくてもいい」っていう基準を持ちたくないし、よくわからないんです。とはいえ全部はできないし、どれかを選ばなければいけない場面は大人になると増えてくるので、パラレルワールドの自分に聞いてみるようになったのだと思います。

――今後チャレンジしていきたいこと、こんな形の絵日記になったらいいなというイメージはありますか。

 引き続き日常を描いていきたいのですが、長期間かかるようなチャレンジもしてみたい(『チャレンジ! つづ井さん』)なと思っています。たとえば資格の勉強だったり、楽器をマスターしたり……なんかすごく普通のことを言っちゃった(笑)。

――いえいえ、楽しみです(笑)。絵日記にその経過や成果を描いていくことで、モチベーションも保てそうですよね。

 行き当たりばったりの内容だけではなく、人生の経過報告みたいな絵日記になっていったらいいなと思います。

【前篇】「アイドルグループの子から目が離せなくなって、映像を何度も巻き戻して、一時停止して…」つづ井に訪れた“推しにハマる瞬間”

つづ井(つづい)

元気で楽しそうな姿が評判を呼んでいる。2014年10月からTwitter(現・X)で公開を始めた絵日記が話題を集める。2017年、デビュー作『腐女子のつづ井さん』が「第20回文化庁メディア芸術祭」推薦作品に選出。2019年『裸一貫!つづ井さん』が「第3回マンガ新聞大賞」大賞受賞。
X @wacchoichoi

とびだせ! つづ井さん2

定価 1,210円(税込)
文藝春秋
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2025.06.29(日)
文=兵藤育子