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心の「本当のところ」はわからない

 人はみんないろんな人との関わりを持って生きています。

 中には自分よりずっとお金持ちの人、能力が上の人、子どもが成功している人もいるでしょう。うらやましく感じ、まぶしく見えるかもしれません。

 でも「本当のところ」は誰にもわからないですよね。

 もしかしたらきついお姑さんで苦労しているかもしれないし、つらい過去を持っているかもしれません。

 みんながみんなあっけらかんと自分を開示しているわけではなく、自分にとって悲しいことやつらかったことは口にしたくないという人もいるでしょう。

 人がどんな事情を持っているかは、ほかの人にはわからないものなんじゃないでしょうか。

 何を隠そうこの私も、お坊ちゃま育ちの主人が部下におごるのにお金を使ってしまい、家にお金を入れてくれなかったという経験をしています。だから「私ががんばらなくちゃ!」と思い、それがのちの仕事につながったわけですが、これだって一般的に見れば「とんでもないこと」だと思いませんか?

 自分がそんな経験をしているので、人の外側だけを見て、「この人は私より幸せ」と断じるのは、全く意味のないことだと思ってしまいます。

 人の幸せそうに見える姿というのは、かげろうみたいなものなのでしょう。

 だって全部、自分の頭の中で作り出しているだけで、本当のところなんてわかりようがないんですから。

 そんな空想にとらわれて、うらやましがったり悔しがったり妬んだりしてしまっては、心が不自由になっていくだけだと思うのです。

 それに誰かの幸せが自分を不幸にするなんてことは絶対にないですからね。

 人は人、自分は自分、と線を引いて混同しないことが大事なんじゃないかと思います。そうすればむやみに人と自分を比べることもなくなっていくことでしょう。

2025.06.15(日)
文=堀容優子
写真=馬場岳人(朝日新聞出版)