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 「こんなかわいいおばあちゃんになりたい!」「人生の目標にしたい」という声が広島から全国に広がり、初めての著書『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』がベストセラーとなった石井哲代さん。

 続編となる新刊『103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』は「哲代さんが自分の心に言い聞かせている言葉たち」をまとめた、まさに“名言だらけ”の一冊。その中から一部を抜粋してご紹介します。


聞く力

 人の話は一生懸命に聞きます。

 内容に聞き入るというより、相手の人のことを思うんですね。そう言ったらいかにも偉そげですが、どうしてこうした気持ちかな、繰り返し言いたいんかなって。

 相手がしんどい思いを抱えとったら、聞いてあげることでその人が持っとるものが軽うなるんですよね。何を手助けできるわけじゃないが、発散できる相手がいるというのも大事なんじゃろうと思います。

 私が若いときは、愚痴や悩みを打ち明けられる人がおらなんだからなあ。仕事しとりましたし嫁の立場ですけえな、そう明け透けにモノが言えません。だから自分で自分を慰めていくしかしょうがなかったです。自分の心の中で、時間かけて消化するっていうんかな。

 初めて会うのに自慢話ばっかりする人もおってです。ほうねほうね、そりゃえかったねえと聞いていれば気持ちよくなってくださるが、ときにチクチクとこっちの胸に刺さることを言いんさる。「娘がようしてくれて」とか「孫がかわいいて」とか。

 私みたいな子どもがおらん者は「幸せばっかじゃん」ってひがみたくなります。でもそこはぐっとこらえて、心得て。「この人も、何か面白くないことや物足りないことがあるんかもしれんなあ」なーんて考えながら聞かせてもらうんです。

 やっぱり「場」の雰囲気が大事です。まあるくて、そこにおって安心できる空気っていうんかな。そういう場が私は好きじゃし、人が寄ってきてくださる。聞き役になる人の心が、そんな場をつくっていくんじゃと思うんです。

2024.03.31(日)
文=石井哲代、中国新聞社