この記事の連載

 102歳を迎えたいまもポーラのビューティーアドバイザーとして活躍する堀野智子さん。2023年に「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定されました。(記録は更新中!)

 『102歳、今より元気に美しく』(朝日新聞出版)には、堀野さんの日々の暮らしが綴られていますが、なかでも、堀野さんの心の持ちようは、人生や人間関係に悩んだ時、きっと参考になるでしょう。今回は特別に、一部を抜粋してご紹介します。

 読むと勇気づけられる一冊です。

【後篇を読む】“102歳・ポーラの現役美容部員”堀野さんは「必殺仕置人」が大好き!【人生100年時代、心も体も健康でいるための秘訣】


2025年4月に、102歳になりました

 私は堀野智子といいます。生まれたのは1923年(大正12年)4月で、ちょうど関東大震災の年にあたります。

 私が18歳のとき、45歳で亡くなった母に「丈夫に産んでくれてありがとう。お母さんの分まで元気で長生きするね」という気持ちでした。

 その祈りが母に通じ、母が守ってくれているのか、おかげさまで102歳というこの年齢まで、盲腸と骨折以外で入院したことがありません。

人は人、自分は自分

 長く生きてきて、人間は気持ちの持ちようで幸せにもなれば不幸にもなるということを目のあたりにしてきました。

 人様のことを批判するつもりは毛頭ないのですが、お付き合いのあった人の中には、過剰に人のことを気にする人がいました。

 そういう人に接したときに、「この人、自分で自分の心を縛って不自由にしているんじゃないかな」と思ったことがあります。たとえばこんなことがありました。

 私はわりと人の感情に鈍感なところがあるので気づかなかったのですが、ある一人の人に長いこと意地悪なことをされていたらしいのです。仮にこの人をA子さんとしましょう。

 職場でA子さんが私の後ろを通るとき、椅子にぶつかるのです。「あれ? 私の椅子が邪魔なのかな」と思って机に近づけました。それでもまたA子さんが後ろを通ると「ガタン!」とぶつかります。

 何回かそんなことが続いたある日、ほかの人から「A子さん、わざと堀野さんの後ろを通るとき、わざと椅子を蹴とばしてるよ」と言われて仰天しました。

 「堀野さん、幸せそうだから妬んでるんじゃないの?」とも言われ、さらにびっくりです。

 ほかにもみんなにお菓子を配っていたとき、「私、そのお菓子大嫌い!」と言って受け取ってくれなかったこともありました。何かにつけ私のすることが気に食わなかったようです。

 ほかにも、あんまり仲良くしてくれなかったB子さんという方もいました。仕事上で何かにつけ、私に反対意見を言ってくるのです。何か私にイライラするものを感じていたように思います。

 ところが、B子さんが職場をやめてしばらくたったころ、彼女にとって「天敵」だったはずの私にしきりに電話をかけてくるようになったのです。しかも長電話で、1時間から2時間、同じ話を何度も繰り返します。

 仕事柄、人の話を聞くのは慣れているので、ふんふんと聞いていましたが、あるときほかの人から「B子さん、認知症になったらしいよ」と聞かされ納得がいきました。

 聞くところによるとみんなに電話していたらしいのですが、ほとんどの人は相手をしていなかったそうです。その人にとってふんふんと聞き続ける私は好都合だったのでしょう。

 なんだかとても複雑な気持ちになりました。

 やがてB子さんは亡くなりましたが、今になってご本人がずいぶんと不自由だったんじゃないかなと思います。

 だって人のことを考えてイライラするのってつらいと思うのです。私は今、102歳。きっとみなさんから見れば「十分すぎるほど生きた」と思えるような年齢でしょう。

 でも私自身はもっと生きている時間を楽しみたいと思っているのです。そんな私からすると、人のことでイライラしたり腹を立てたりするのって、せっかくの楽しい時間を削られるようで本当にもったいないと思ってしまうんです。

 負の感情は自分自身をがんじがらめにして、楽しくなくさせますから。

2025.06.15(日)
文=堀容優子
写真=馬場岳人(朝日新聞出版)