僕の悩みはちっぽけですよ

「生き物に“幸子”以外の名前を付けるのは傲慢」という持論がある松井さん。自身を博愛主義だと語るが、その考えに行き着いたのは、中学時代だった。
「尾崎豊を聴きこんで、愛以外いらないという結論に達したんです。すべてに愛を以て接したいんですよね。一時期、尾崎の曲を聴きすぎて、初めて聴く曲なのに次にどういう歌詞がくるかがわかったこともありました」

元々、悩みを誰かに相談するタイプではないという。
「ちっちゃな失敗でめっちゃくよくよしますよ? けど誰にも相談しないのは、自分の悩みが人の手を煩わせるまでもない、小さいことだと思うから。他の人はもっと大きな悩みがあるじゃないですか。芸人になるような無茶苦茶な人たちからすると、僕が気にするようなことは本当に当たり前の失敗だったりするんです。
だって、僕の悩みって“スベるのが怖い”とかですからね。芸人にとって当たり前のことを、自分の弱点としてわざわざYoutubeで話してしまえるのは、芸人としての覚悟がないからなんですよ」

今一番の悩みを問うと「夢中になれないことですかね」と答える。
「これまでの人生で何かに夢中だった時期って、浪人時代しか思い浮かばなくて。模試で全国4位になったあの頃は、目標に向かって着実な努力を積み重ねている感覚がありました。けど、今はできなくなってしまったんですよね」
M-1優勝も夢中にならずに果たしてしまったということか。
「(結成15年以内という)出場制限があるからやるかぁくらいのものだったので、“夢中”とはニュアンスが違う気がします。今仕事を頑張れているのは、単に心と体が強いから。自己顕示欲が強いので褒められると嬉しいし、短期的なスパンで見返りがあるなら頑張れる。そういう意味で、お笑いって評価のレスポンスが早くて楽しいんですよね」
2025.07.05(土)
文=高本亜紀
写真=松本輝一
CREA 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。