この記事の連載

 ラジオでの相談回答数はなんと2000件超え。今やすっかり人生相談の名手となっているジェーン・スーさんと、もはや相棒といえる存在の堀井美香さん。

 ふたりの軽快なクロストークは幅広い層に人気で、Podcast番組「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」では、ふたりが本音を交えて繰り出す、ユーモアと深みのある回答がリスナー(通称「互助会員」)を魅了している。

 ふたりが読者のお悩みに答えます!


【相談】母のようになれない自分

【お悩み】
たまに実家に帰省した際、専業主婦の母が尽くしてくれればくれるほど、自分は何も返せないことに苦しくなります。私は仕事優先で、趣味に興じて、独身で、母のようにはなれていない、程遠くなってしまったなと。親不孝なのではないかと。今の私の生き方を、両親に責められたことはありませんが、勝手に自分で自分を責めてしまいます。母が好物をたくさん作って食卓に並べてくれても、「素直に喜んだら良い、そのほうが母のためにもなる」と頭ではわかっているのですが、後ろめたさや罪悪感でしょんぼりした気持ちになり、それが態度にも出てしまいます。どのように気持ちを整理し、母と向き合っていけば良いでしょうか。
(31歳・女性・トマト缶さん)

スー 「しっかりしなさい!」って、発破をかけたくなってしまうところなんですけど(笑)、まずは美香ちゃん、どうぞ!

堀井 渡されました(笑)。いや、お母さんはきっと義務でやっているわけでも、何かを伝えようとしているわけでもなくて、たぶん、やっていること自体が幸せなんじゃないかなって思うんですよ。

スー やりたくてね。

堀井 そうなんです。そして、やりたくてやっている人に対しては、ちゃんと受け取って感謝するのが健康的だと思うんです。プレゼントとかでも社交辞令で「いやいや、いいのに~」とは言いつつも、もらったら「わあ、ありがとう!」って素直に喜んだほうが気持ちがいいですよね。

 もし、お母さんの言動がすごく負担に感じるなら、一度正直に「ちょっとプレッシャーに感じるんだ」と伝えてみてもいいかもしれません。それでもお母さんが「私はやりたいのよ!」と言うなら、やらせてあげて、それを素直に受け取る、というのがいいのではないでしょうか。そこに変な負のスパイラルとか、罪悪感を抱く必要は一切ないと思いますよ。

スー 相談者さんの気持ちもわからなくはないんですけど、それはあなたが18歳くらいまでだったら、の話なんです。親が優しくしてくれることにうまく応えられない、感謝できない、自分の自意識が刺激されて「自分は悪いことをしているんじゃないか」という気になって、つらく当たってしまうというのは、本当に思春期くらいまでの感覚だと思います。

 相談者さんが31歳ということは、お母さんは還暦に近い年齢ではないかと察します。その年齢の親に対して、大人として最低限の感謝は必要です。自分と親は「同一人物ではない」んですから、そこは大人としての対応を取るべきでしょう。

 「母のようになれない自分」にバツをつけているのは、あなたの中に内面化されている、古い時代の価値観なんです。すべてが自意識の問題なんだと思います。そこには他者を介入させない方がいい。今は誰もあなたを責めていないのに、勝手に自分自身を責めたり、居心地の悪さを感じている。そして、それを「喚起させる母親」に対しての不満を態度に出してしまう。これはよくよく考えると「当たり屋」みたいなものだと気づけると思います。大人になったら自分で自分を承認していかないと、ダメなんですよね。

堀井 「母とどう向き合えば」と書いてくださっているんですけど、現状はご自身のことしか考えられていないということなのかもしれませんね。

スー そうね。お母さんのことを第一に考えているようでいて、「お母さんからどう思われるか」とか、「お母さんと比べて私はどうか」と意識してしまうのは、全部「自分のことしか考えてない」思考なんだ、とまず腹に落としたほうがいいと思いますね。まずはそういう自分がいるんだと認識すべきだと思います。

堀井 自意識が行動につながって、自分自身をコントロールできていない状態なのかも。でもそれって、直そうと思ったら直せるものなのかな?

スー 訓練ですね。これは「できる人は恵まれてる」とかではなくて、みんなそれなりにキツイ思いをしながら、訓練をしてきているんだと思います。もし、人の言うことを全部悪意に感じてしまったり、ネガティブに捉えてしまったりするということであれば、それは自己肯定をする「土台」ができていないということ。相談者さんの場合は、たぶんご両親の影響で自己肯定感が低いというわけではないと思うんですけど……。

堀井 きっと今はひとりよがりになってしまっているだけだよね。

スー それ、最近私がいろいろなところで話していること! 結局、自分のことばかり考えている人は行き詰まりがち!

堀井 お母さんのことを考えていたら、「ありがとう」で済むわけじゃないですか。それができないのは、自意識過剰であったり、自分をまだ子どもだと思っていたりするからなのかもしれません。自分だけのことしか考えられてないと、いろんなものが気に障ってしまう。だから一度、相手側の思いを想像してみてもいいかもしれない。そして素直にその思いを受け取ってみる。そのほうが相談者さん自身も楽になれる気がします。

スー 自分の人生は誰とも比べなくていいんだよ。応援してる!

» 『OVER THE SUNのお悩み相談室』まとめページを見る

ジェーン・スー

1973年、東京都生まれ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」、Podcast番組「となりの雑談」パーソナリティとして活躍。近著に『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)、『へこたれてなんかいられない』(中央公論新社)などがある。

堀井美香(ほりい・みか)

1972年、秋田県生まれ。2022年3月にTBSを退社しフリーランスに。様々な番組・CMでナレーションを担当する一方、自ら朗読会を主催するなど、多方面で活躍する。初主演を務める舞台『フェードラ―炎の中で―』が6月26日より東京・水戸で上演予定。

Podcast「ジェーン・スーと堀井美香の『OVER THE SUN』」

毎週金曜日の夕方5時に配信。TBSラジオが制作するPodcast番組。飾らないトークで女性たちの支持を集め、月間リスナー約80万人の人気番組に。2025年3月には日本武道館でイベントを開催し、約8000人を動員した。

衣装クレジット

ジェーン・スー ジャンプスーツ 99,000円/シンヤコズカ(ザ・ウォール ショールーム) シューズ 64,900円/ビィウィッチ ピアス/スタイリスト私物

堀井美香 ドレス 29,700円/ヌキテパ(パサンド バイ ヌキテパ) ネックレス 23,100円/フミエ タナカ(ジャーナル スタンダード レサージュ 丸の内店) シューズ 25,300円/オデット エ オディール(オデット エ オディール 新宿店)

オデット エ オディール 新宿店

電話番号 050-8893-4165

ザ・ウォール ショールーム

電話番号 050-3802-5577

ジャーナル スタンダード レサージュ 丸の内店

電話番号 03-5860-3215

パサンド バイ ヌキテパ

電話番号 03-6427-9945

ビィウィッチ

電話番号 03-5726-9750


 「40歳を目前に、何もない自分に絶望する」「母のようになれない私はどうしたら……」「すぐ泣いてしまう新人への接し方は?」「突然、古着を送ってくる親戚に困っている」など、続きは「CREA」2025年夏号でお読みいただけます。

← この連載をはじめから読む

2025.07.11(金)
文=綿貫大介
写真=尾身沙紀(io)
スタイリング:佐藤里沙(BE NATURAL)
ヘアメイク=藤原リカ(スーさん/Three PEACE)、yumi(堀井さん/Three PEACE)

CREA 2025年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

1冊まるごと人生相談

CREA 2025年夏号

母娘問題、職場の人間関係から、性やお金の悩みまで。
1冊まるごと人生相談

定価980円