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私はかわいくて気高い日本のバニーガールなのだ

 私はバニーガールの自分が好きだ。この衣装は、誰とも関わろうとしなかった私に、新しい私を与えてくれた魔法の衣装である。たくさんの人に出会わせてくれて、自分の身体に誇りをくれた大切なものだ。ヒュー・ヘフナーの思惑なんて知ったことではない。いつでも発情期のセックスシンボルでもない。アメリカのことなんて知ったこっちゃない。私は日本のバニーガールだ。60年も続いてきた、かわいくて気高い日本のバニーガールなのだ。イライラしながら写真のついたポストの通報ボタンを押し、他にもからかうように載せられていたいくつかの写真も片っ端から通報していった。しばらくしてそのポストは削除されたようだった。

 次に私が出勤したとき、会社はすでに事態を把握していて、全店舗のバニーガールに向けて「従業員を守るため適切な処置をとる」との文面が共有されていた。実際、家族や恋人に内緒で働いているバニーも沢山いた。私だって、今の恋人に「バニーガールをやってます」と打ち明けるときは怖かった。実際に働いているところを見てもらわないと、いかがわしい想像をされてしまうのも仕方ないし、私たちの仕事が全員に受け入れられるとはみんな思っていない。大学生のバニーたちは、数年経てば普通に就職をして、無縁の世界に旅立っていくのだ。これからバニーガールはどうなっていくのだろう。100年まであと40年。私はいつまでウエストを保って、この高いヒールで飛び跳ねられるだろう。めっきり減ってしまった出勤を後ろめたく思いながら、それでもちっとも薄くはならない膝の黒ずみを、ときどきそっと撫でている。

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伊藤亜和(いとう・あわ)

文筆家・モデル。1996年、神奈川県生まれ。noteに掲載した「パパと私」がXでジェーン・スーさんや糸井重里さんらに拡散され、瞬く間に注目を集める存在に。デビュー作『存在の耐えられない愛おしさ』(KADOKAWA)は、多くの著名人からも高く評価された。その他の著書に『アワヨンベは大丈夫』(晶文社)、『わたしの言ってること、わかりますか。』(光文社)。

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Column

伊藤亜和「魔女になりたい」

今最も注目されるフレッシュな文筆家・伊藤亜和さんのエッセイ連載がCREA WEBでスタート。幼い頃から魔女という存在に憧れていた伊藤さんが紡ぐ、都会で才能をふるって生きる“現代の魔女”たちのドラマティックな物語にどうぞご期待ください。

2025.06.03(火)
文=伊藤亜和
イラスト=丹野杏香