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叩かれると思った「定時で帰る」キャラクター。蓋を開けると…?

しろやぎ また、別の中堅教師への取材で意外だったのは、ホワイトな環境で働いている教員も一定数いるということです。「そんなにブラックじゃないですよ」と言う人もいました。

 僕は最初、教員のブラックな労働環境にだけスポットを当てるつもりだったんです。けど、実際にはブラックとホワイトが斑(まだら)になっている。厳しい環境にいる教員と、白兎先生のようにホワイトな環境にいる教員が両方いるんです。だから漫画では暗い部分にだけ光を当てるのはやめようと意識しました。

――なぜ環境に差が生じているんでしょうか?

しろやぎ 「できません」と断れる本人の性格や、介護や子育てといった明確な理由、学校によっては働き方改革の成果など様々な要因があるみたいですね。

――webで今作を連載した際、読者からはどんな反応がありましたか?

しろやぎ 正直、最初は主人公の白兎先生が非難されるだろうと思っていたんです。仕事もせずに定時退社して、パチンコばかり行くから。でも実際には「白兎先生が正しい」という意見が多くて、改めて「この労働環境はおかしい」とみんな気が付いているんだと感じました。

――白兎先生のキャラクターって、社会人として「どうなの?」と思う部分も少しありますよね。

しろやぎ そうなんです。定時退社してパチンコに行く先生って、周りからいろいろ言われると思うんですけど、動じない人を作ろうと思ったら、多少の批判は全部無神経で返すくらいのメンタルの持ち主になりました。

 でもキャラクター作りにはかなり悩んで、白兎先生とはまったく逆で「部活は仕事じゃないでしょう」みたいに正論ばかり唱える「白虎先生」というキャラクターを作ったこともあるんです。体格が良くて強そうにしたり。最終的には正論ばかりでは読者に愛されないし、共感も生まれないと思って今のキャラクターに落ち着きました。

――白兎先生はプールの水を止め忘れて30万円払うことになった先生に「パチンコで一発当てて、お金を返そう」と付き添う優しい(?)面があったりして、つかみきれないキャラクターでした。

しろやぎ 連載が続けば、白兎先生の過去ももっと描きたいです。

 白兎先生がパチンコが好きな要素は、私が過去に現実逃避の場としてパチンコにのめり込んでしまった経験から持ってきています。しかし白兎先生にとってのパチンコは現実逃避の場などではなく、彼女の人生に無くてはならない「生きがい」として描いています。

――今作で、しろやぎさんが気に入っているキャラクターは誰ですか?

しろやぎ 白兎先生以外は、いわゆる聖職者らしい教員にしようと思って描きました。個人的に好きだったのは鬼瓦強先生ですね。見た目がいかついんですけど性格は優しくて、ずっと臨時講師という立場も良かったです。

 また第1話の黒田先生も、個人的に印象深いです。黒田先生は、講師として働いていたときに出会った先生を少しモデルにしています。授業や部活はもちろん、どんな業務に対しても常に一生懸命な人で、生徒と同僚からもすごく信頼されていたんです。でも、その人は、40代という若さで病気で亡くなってしまいました。

インタビュー【後篇】に続く
マンガ『白兎先生は働かない』第1話を読む

しろやぎ秋吾(しろやぎしゅうご)

イラストレーター、漫画家。フォロワーから募集した話を漫画にしてSNSやブログで公開している。著書に2025年に舞台化された『娘がいじめをしていました』のほか、『10代の時のつらい経験、私たちはこう乗り越えました』『すべては子どものためだと思ってた』『ちにかみ』(以上、KADOKAWA)、『犬が伝えたかったこと』(サンクチュアリ出版)など。
X(旧Twitter) @siroyagishugo
Instagram @siroyagishugo

白兎先生は働かない

定価 1,430円(税込)
集英社
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次の話を読む「学校が大嫌いで“絶対に声を出さない子供”だった」マンガ家・しろやぎ秋吾が“定時で帰ってパチンコで遊ぶ”中学教師を描いたワケ

2025.06.03(火)
文=ゆきどっぐ