――話を聞いてくれたということですか。
村上 はい。心の中にある棘みたいなものを抜いてくれるのが上手いんですよ。聞き上手というか。元々口下手な人だったけど、選手のケアをしているうちに、相手の本音を引き出すのが上手くなったんだと思いますね。その選手がどこに問題を抱えているか的確に判断するには、その人の言葉を一言も漏らさずにキャッチしなければならないと思うので。
私も彼と話しているうちに、前を向けるようになったんですよね。

「結婚したいと言ったのは私の方から」
――結婚を決意したのはいつ頃だったのでしょうか。
村上 結婚したいと言ったのは私の方からですね。私は25歳で引退するまでずっと大学の寮生活だったんです。プライベートな部分を優先してこなかったし、周りに話もしてなかったから、それが結構きつくて……。だから引退を機に、一緒に暮らし始めました。

ただ……私は引退して一区切り、という感覚でしたが、彼は卒業と同時に専門学校に通っていたこともあって、トレーナーとして経験を積みたい時期だった。私はすぐにでも結婚したかったけど、式を挙げるならお金も必要ですし、彼はまだ無理だと。「じゃあ、いつ?」と聞くと「来年かな」と言われたので「じゃあ、1月1日ってこと?」って。
――村上さんがリズムを作っていたんですね(笑)。
村上 そういう性格なんですよ(笑)。でも当時、彼は彼で悩んでいたようでした。
ーーどういったことを?
村上 村上茉愛の相手が自分でいいのか、今の自分が受け止められるのかどうか、と。そんなことをお義兄さんに相談したところ「茉愛さんが今の君を好きでいてくれるならそれでいいんじゃない」と、背中を押されて、覚悟を固めてくれたみたいです。それが2022年の秋ぐらいの話ですかね。

私は早く結婚したかったので引退から1年後ぐらいは、「結婚したい」「まだ、無理」「じゃあ、いつ」「生活が安定したら」「婚約指輪なんていらないから」……。なんてよく言い合いになっていましたね。
2025.05.31(土)
文=吉井妙子