これからの選手に伝えたいこと

――村上さん自身はコンディションの調整に苦しんだことはないですか。

村上 あります! 大きなケガも何度かしていますし。だから自分の現役時代の反省を込めて、これからの選手に伝えたいんです。

 私の大きなターニングポイントは高3から大学1年の時。やっぱり体重のコントロールに苦しみ、コンディションの調整に失敗しました。これまで出場すれば当たり前に勝っていた国内大会でも失敗するようになり、2015年、大学1年時の世界選手権には補欠でやっと選ばれるような成績不振。

 やめてもいいやと思うぐらいやけくそになっていましたけど、「いや、このままでは終われない」と思い直したんです。私の小さい頃からの夢はオリンピックでメダルを獲ること。その夢が叶ってもいないのにやめるわけにはいかないって。

――指導者として、その時の自分に声をかけるとするなら?

村上 「ちゃんとやれ!」と言いたいですね(笑)。実際、当時は監督の瀬尾(京子)先生にもメンタルを整えていただいたんです。「考えを改めなさい」って。それ以降調子が戻ってきて、国際大会でいくつもメダルを獲れるようになったんです。

――体を知ることの必然性やメンタルヘルスの重要性は自分の経験からきているんですね。

村上 そうです。ジュニアの選手は多かれ少なかれ避けて通れない道。だったら、先に知っていた方がいいじゃないですか。今の選手たちの技術は私より高いので、この基本というか、土台をしっかり築いていれば、技術の上達はいくらでも出来るはずなんです。

 メンタルヘルスの整え方は、選手個々の性格によっても違ってくるのでそこは注意深く観察する必要がありますね。

ライバル選手の棄権に涙を流した理由

――2021年の東京五輪、「絶対女王」と言われていた米国のシモーン・バイルス選手がメンタルヘルスの不安を理由に団体競技を途中で棄権しました。

村上 コロナ禍で行われた特殊な大会でしたけど、あれほどの選手でも「メンタルヘルスを優先したい」と棄権してしまうんだと衝撃でした。

――村上さんも試合後にバイルス選手の棄権を問われ、涙を流していましたね。

村上 東京五輪はモチベーションの持っていき方がすごく難しい大会だったんです。「コロナ禍の中で開催していいのか」という批判の声が私のSNSにも届いていました。不安な気持ちもわかりますし、でも厳しい声を直接目にするとやっぱり傷つくし、辛かったですね。それでもやるからには絶対に全力を出し切りたいし、勝ちたい。気持ちのコントロールがすごく難しかった。

 試合後にバイルス選手のことを問われ、それまで心に閉じ込めていた感情が途端に溢れ出たんだと思います。実は自分でもびっくりでした。それまで「絶対に負けない」と必死に練習してきたけど、心は相当痛んでいたんだと自分の涙で気づきました。

 メンタルヘルスが整わないとイップスになることもあるし、睡眠障害も引き起こします。実は、それで競技自体を辞めてしまう人も少なくありません。

2025.05.30(金)
文=吉井妙子