――自ら、あまり食べようとしない、という選手もいるのでしょうか?
村上 見るからに「ほっそいな!」という子は心配になりますね。もちろん体質もありますし、個人の体型についてあれこれ言いたくはないんですけど……。
子どもって皮下脂肪が少なくて軽いから、男子も女子も関係なくポンポン飛ぶんですよ。ただ、思春期に入ると女性は脂肪がつきやすくなる、でも筋肉はつきづらいから思うように飛べなくなる。それで焦って、無理なダイエットをしているんじゃないか。そう思うときはあります。

ただ、体操は採点競技ですから、難易度の高い技を体で操ることだけでなく、演技力・表現力も重要です。そのためには、パフォーマンスを「魅せる」ための体づくりというのも求められます。体の線が細いとそれだけで印象が薄くなってしまうこともある。ただでさえ、欧米系の選手は大人の女性が美しい演技をしているイメージに対し、日本などのアジア系の選手は幼い印象を持たれてしまいがちですよね。
ストレスで生理が止まってしまうことも……
――思春期の乗り越え方は大きな課題ですね。
村上 でも、体の変化に徐々に慣れてさえ行けば、子どもの頃よりも表現力もつきますし、パフォーマンスが上がるんです。焦らず、それぞれが自分に合った調整方法を見つけていけば、絶対乗り越えられる壁だと思っています。
――女性アスリートの多くが生理で悩むという話も聞きます。
村上 私はそれほど悩みませんでした。ただ、大きな大会前などはストレスで脂肪量が減り、止まってしまうことはあったかな。
大学生になってもまだ生理が来ないという選手はたくさんいましたね……。一般的には体脂肪が10%を切ると生理が止まってしまうと言われていますけど、体操選手は限界ラインを切る選手が多いんです。極端な言い方をすると、生理がない方が楽なんですよ。気にすることがないから。それを当たり前に思っている選手もいる。

――生理が来なければ、試合と重なったりしないかという不安もなくなると。
村上 でも、この考えは絶対によくない。長く競技を続けるためには、ちゃんと食べて、トレーニングをきっちりやる。精神的な影響を受けやすい競技なのでメンタルヘルスも重要。ベースが整った状態で競技に全力を尽くすのが本来の姿です。
――目に見えない不調は軽く扱われてしまいがちですよね。
村上 大きな試合の前には必ずメディカルチェックがありますが、そこで引っかかる選手は少なくないですね。形成外科的なものもありますけど、貧血とかホルモン系とか……。多分、脂肪量、筋肉量、水分量などのバランスが一般の方と全然違うんじゃないでしょうか。
だから私は、ジュニアの選手から生理だったり、食事だったり、ヘルスケアの重要性を教えていきたい。男性指導者だとなかなか触れづらいところだとも思うので。
2025.05.30(金)
文=吉井妙子