この記事の連載
井田千秋&山本ゆり対談【前篇】
井田千秋&山本ゆり対談【後篇】
憧れのお菓子を作る楽しさを知った本
――お二方とも、子どもの頃にお料理の本を読むのが好きだったそうですが、どんな思い出がありますか?
井田 思い出深いのは『みなみさんのケーキノート』。キャスターとして活躍された渡辺みなみさんのレシピ本です。アメリカ留学でケーキ作りに目覚め、その後もフランスでお菓子作りを勉強された方です。母が買った本なんですが、写真がすごくきれいで。食べたことのない味を想像して憧れていましたね。
この本でニューヨークチーズケーキというものを知ったんです。それで作ってみたんですが、オーブンで湯せん焼きをするとき、ケーキ型の底を保護しなきゃいけないのを知らなくて。
山本 底がぬけるケーキ型はすきまがあるので、ホイルで覆わないと水が入っちゃうんですよね。
井田 ふやけたチーズケーキになっちゃいました(笑)。そういう失敗の思い出もありつつ、憧れのお菓子を作る楽しさを知った本です。

偶然二人とも持っていた本
山本 私も、最初に夢中になったのは母の持ってた本です。『可愛い女(ひと)へ。お菓子の絵本』。
井田 え、これ持ってます!
山本 ホント!? この本と『赤毛のアンの手作り絵本』シリーズ全3冊が大好きで。
井田 それも持ってます。大好きな本です。
山本 じつは私、井田さんの『家が好きな人』を見たとき、パッと『赤毛のアンの手作り絵本』が思い浮かんだんです。絵のタッチは全然違うんですが、あの本の雰囲気と近いものを感じて。
井田 光栄です。私、インタビューで好きな作家さんや本を聞かれると、必ずその本を挙げてるんですよ。
山本 『可愛い女(ひと)へ。お菓子の絵本』は料理の本だけど、『不思議の国のアリス』とか『足長おじさん』とか、物語に付随したレシピを紹介する本で。お菓子の写真もおいしそうなんですが、物語に出てくる女の子のしぐさやファッションや、ちょっとレトロな雰囲気が素敵なんですよね。外国の知らない食材や文化に触れて憧れました。『ごはんが楽しみ』も、出てくる女の子が全部かわいくてセンスのかたまりだなぁと思うんですが。髪型も服も何もかも!
井田 前作の『家が好きな人』には女の子がいっぱい登場しているので、今回「女の子が出てこない」とがっかりされるんじゃないかと不安で(笑)。作為的に女の子を忍ばせたんですけど。そう言っていただけてホッとしました。
山本 女の子ナシでも満足なんですけど、女の子がいることでより食べ物のイメージもふくらむんですよ。

――山本さんは『可愛い女(ひと)へ。お菓子の絵本』を見て作ったお菓子はありますか?
山本 小学生のとき、まさに最初に作ったお菓子はこの本のカップケーキだったと思います。それからチーズケーキやシュークリーム、フルーツタルト。タルト型がうちにないからグラタン皿で焼いて全然火が通らなかったり(笑)。工程写真がないのでわからないことだらけで。今と違ってネットでサクッと調べることができないんで、たくさん失敗しながら何回も作ってました。でも、いろいろ失敗した経験があるからこそ、自分が料理の本を作るとき「ここに注意してください」って先回りして書けるのは良かったなと思います。
2025.05.24(土)
文=粟生こずえ